2億年以上前に誕生したハチは当初、他の昆虫を狩る肉食性のグループでした。
ミツバチのような花粉を食べ蜜を蓄える「ハナバチ(花蜂)」が進化したのは、そこからさらに時を経た約7000万年前だったと考えられています。
しかしその正確な出現時期については証拠が少なく、専門家らも明確な答えは出せずにいました。
そんな中、米ワシントン州立大学(WSU)、ブラジル・サンパウロ大学(USP)の遺伝子研究により、最初のハナバチは約1億2000万年前の超大陸ゴンドワナで誕生していたことが明らかになりました。
草食のハチは予想以上に早く進化していたようです。
研究の詳細は、2023年7月27日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。
花粉を食べるハチはどう進化した?
これまでで最も古いハチの化石は約2億2600万年前のものですが、遺伝子解析によると、約2億8100万年前にはハチの進化がすでに始まっていたことが示唆されています。
最初のハチは肉食性で、幼虫の餌のために他の虫を狩ったり、長い毒針を持つ寄生バチなどが繁栄しました。
それから1億年ほど前に花を持つ被子植物が出現したことで、花粉を食糧源とするハチが現れ始めます。
すると花は受粉を媒介してもらうために蜜を作り出し、それを求めたハチが花に集まるようになりました。
こうして花粉や蜜を食べる「ハナバチ(花蜂)」のグループが進化したと言われています。
ハナバチの種は花の進化に合わせて多様化し、これが現代の私たちにも馴染み深いミツバチやクマバチ、マルハナバチなどへ繋がっていきます。
ハナバチ類は現在、世界で7科、約2万2000種が知られています。
一方で、WSUの昆虫学者で研究主任のサイラス・ボッセルト(Silas Bossert)氏は「ハナバチの起源はかなり不明瞭で、いつどこで進化したかがよく分かっていなかった」と話します。
この謎に挑んだのが今回の研究なのです。
ハナバチはいつどこで誕生したのか?
今回の研究チームは、世界中のハチ専門家と協力し、現生する200種以上のハナバチのサンプルを集め、遺伝子解析を実施。
それを絶滅種を含む185種のハナバチの化石から採取したDNAと比較し、ハナバチの進化が遺伝的にいつどこにまで遡り、どのように拡散していったかを調べました。
研究者によると、本調査はこれまでで最も広範なハナバチのゲノム研究であるといいます。

その結果、ハナバチの遺伝的系統は、白亜紀前期(約1億4500万〜1億50万年前)のゴンドワナ大陸西部に遡ることが判明しました。
ゴンドワナ大陸とは過去に存在した超大陸の名前で、今日のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、インド亜大陸、南極大陸、オーストラリア大陸、アラビア半島、マダガスカル島を含みます。
その中でもハナバチは分裂前のアフリカ大陸と南アメリカ大陸で進化したことが示されました。

チームはまた、ゴンドワナ大陸の分裂とともに新しい大陸が形成されるにつれて、ハナバチが北半球に移動し、花を咲かせる被子植物の拡散と並行して種を多様化させていったという証拠も発見しました。
その後、すべての主要なハナバチの科は、恐竜が絶滅した直後の約6500万年前に一気に誕生したとのことです。
研究者らは新たに判明した出現年代について、これまでで最良の推定値を示していると述べています。

チームは今後、より多くの種類のハナバチを対象とした遺伝子解析を行い、ハナバチの進化史や地理的分布の変遷を明らかにしていきたいと考えています。
特にハナバチと被子植物がどのように相補的に進化してきたかを知ることは非常に重要です。
ハナバチの進化や広がりは被子植物の進化と拡大とも密接に繋がっています。
かつて、アインシュタインは「ミツバチが地球上から消えたら、人類は4年ともたない」という言葉を残したそうです。
私たちにとって見慣れた植物であるリンゴやサクランボも、「花粉媒介者」たるミツバチがいなければ繁殖することが難しくなってしまいます。
それくらい彼らは、地上の生態系を維持するために欠かせない重要な存在なのです。
参考文献
Bees evolved from ancient supercontinent, diversified faster than suspected
Bees likely evolved from ancient supercontinent, earlier than suspected
The world’s earliest bees may have called Gondwana home
元論文
The evolutionary history of bees in time and space