これからの暑い季節は熱中症だけでなく、ヘビの噛みつきに要注意です。

米エモリー大学(Emory University)の研究チームはこのほど、暑い日ほど毒ヘビに噛まれやすくなることを発見しました。

報告によると、気温が1度上昇するごとにヘビに噛まれる件数が平均で6%増加したという。

変温動物であるヘビは外部の気温によって体温が決まり、寒い冬場は動きが鈍くなります。

これを踏まえると、暑い日は体が十分に温まって動きが活発になるのかもしれません。

研究の詳細は、2023年7月11日付で科学雑誌『GeoHealth』に掲載されています。

”ヘビの楽園”で有名な米ジョージア州で調査

今回の研究はアメリカ南東部にあるジョージア州で実施されました。

ジョージア州は”ヘビのホットスポット”として知られ、アメリカ国内でもトップクラスの種数を誇ります。

全部で45種のヘビが生息しており、うち17種が毒ヘビ、その中で命にかかわる危険な毒ヘビは7種(マムシ3種・ガラガラヘビ4種)です。

ジョージア州に分布する危険な毒ヘビ7種
Credit: Mariah Landry et al., GeoHealth(2023)

研究チームは2014年から2020年にかけてジョージア州で発生したヘビ咬傷データを集めて分析しました。

ヘビに噛まれた救急外来患者は全部で5000件を超えており、そのうち毒ヘビに噛まれた件数は3908件でした。

チームは患者がヘビに噛まれた日の気温や降水量、湿度などを調べ、さらにそのデータを同じ月内の他の日の気温と比較して分析。

その結果、ヘビに噛まれるリスクは明らかに暑い日ほど高くなっていることが判明したのです。

具体的には、気温が1度上昇するごとにヘビに噛まれるリスクは平均6%上昇していました。

研究主任のノア・スコブロニック(Noah Scovronick)氏は「このリスクの上昇率は、暑さに関連して増加する他の健康被害に見られる上昇率よりも高い」と指摘します。

では、なぜ暑い日ほどヘビに噛まれやすくなるのでしょうか?

気温が高いとヘビが活発になる?

原因はやはり、変温動物であるヘビの生態にあるようです。

ヘビの体温は外部の気温に依存しており、寒ければ体温も低下し、暑ければ体も熱くなります。

実際、ヘビの活動量は気候によって大きく変動することが知られ、冬場は冬眠をするのでほとんど動きません。

反対に、春〜夏にかけての暖かい時期はヘビも活発になり、繁殖シーズンに入ります。

現に今回の調査によると、ヘビに噛まれた総件数は夏場が最も多くなっていましたが、特に気温とヘビ咬傷の関連性が強かったのは春でした。

スコブロニック氏によると、春はヘビが寒さから目覚める季節であり、気温の上昇に伴ってより活動的になりやすいと説明。

一方で、夏場の気温が高くなりすぎる日はヘビの体が火照りすぎて、逆に動きが鈍くなる可能性もあると話しています。

期間内におけるジョージア州各地でのヘビ咬傷件数(赤いほど件数が多い)
Credit: Mariah Landry et al., GeoHealth(2023)

それからチームは、同じ関連性が他の危険生物にも見られるかを調べてみました。

ここでは身近にいるクモ、サソリ、スズメバチを対象としましたが、気温と被害件数との間に強い関連性は見られず、ヘビに特有の現象であることが示されています。

また研究者らは、土地開発や都市部の拡大によりヘビと遭遇する確率が高まっているため、今後さらに被害が増加するかもしれないと指摘しました。

日本でも気をつけるべき?

世界保健機関(WHO)の推計によると、ヘビによる咬傷は世界で年間500万件を超え、毎年13万8000人が死亡しています。

同チームのローレンス・ウィルソン(Lawrence Wilson)氏は「ヘビとの遭遇を減らすために必要なのは公的な教育です」と話します。

「ヘビが好む生息地(例えば茂みが密集しているような場所など)を広く知ってもらうことで、危険な遭遇を回避することができるでしょう。

ヘビと人間は、たとえ毒ヘビであっても、彼らの生息地とニーズを尊重し理解すれば、十分に共存できるのです」

日本に生息するヤマカガシの頭部
Credit: ja.wikipedia

また今回の結果は、私たち日本人にとっても決して無関係ではありません。

日本の野生にガラガラヘビはいませんが、毒ヘビはニホンマムシ、ヤマカガシ、ハブの主に3種類が存在します。

このうち、ハブは沖縄のみに分布しますが、マムシとヤマカガシは日本全国に広く分布しています。

茂みの中にむやみに手を突っ込んで、ヘビに噛まれるケースも少なくありません。

これからの熱くなる季節、草むらや藪に近づく際は「ヘビの噛みつき」を念頭に置いておくべきでしょう。

参考文献
Your Chances of Getting Bitten by Venomous Snakes Are Increasing – Here’s Why
Risk of venomous snakebites grows as temperatures increase, study shows
WARMER WEATHER MAKES VENOMOUS SNAKE BITES MORE LIKELY, ESPECIALLY IN SPRING

元論文
The Association Between Ambient Temperature and Snakebite in Georgia, USA: A Case-Crossover Study