馴染み深い体験はリスクが少なく、安全で、個人的に意味がある
では、なぜ私たちは「最後」を意識すると馴染み深い方を選択するのでしょうか? 研究チームは①リスクと②個人的意味合いに焦点を当て、検討を行っています。
研究チームは、オンラインで募集した500名を対象に、「最後」である感覚を意識づけられた場合には、特に指示がなかった場合と比較して慣れ親しんだ体験をどのように認識しているのかを調べています。

実験の結果、「最後」である感覚を意識づけられた場合には、特に指示がなかった場合と比較して、慣れ親しんだ選択肢をよりリスクが少なく、安全な選択肢をだと評価することが分かりました。

また後続の実験室実験によって、「最後」である感覚を意識づけられた場合には、慣れ親しんだ体験をより個人的に意味があると解釈する傾向があることも確認されています。
つまり新しい体験よりも、慣れ親しんだ体験は、自分の満足度を低下させるリスクが少なく、過去の経験から想起される個人的な意味づけが強く、「最後」の機会に選ぶのに相応しいと考えられている可能性があります。
最後の機会には定番のメニューを提供する

今回の研究結果は、最後に刺激的で新しい体験を求めるのではなく、慣れ親しんだ活動をもう一度体験したいと考える傾向が存在することを示しました。
これまでの研究では、人は慣れ親しんだものよりも新しいものを好むという証拠が多く提出されてきました。しかしこれらの研究はシチュエーションが特に限定されておらず、「最後」を意識した場合に選択が変化するかという問題は考慮されていませんでした。
実際に新しいものを経験することは、好奇心を満たすことをはじめ、創造性を促進するなど、さまざまな利益を人々にもたらします。
しかし、ある期間や状況において最後となる選択では、①自分自身の満足を最大化できる確実性と②意味のある形で物事を終わらせたい欲求が影響し、選択が変化する可能性が考えられます。
オブライアン氏は「この研究の興味深い点は、多くの人は物事が終わりに近づくにつれ、今までに経験したことのない新しい体験を追求すると思われていたことに対して、実際には馴染み深い経験を求める傾向があったと示せたことです」と述べています。
人間は高齢になるほど、新しいものを嫌って、馴染み深いものを繰り返す「懐古主義」の傾向が強まる印象があります。
しかし、これは歳をとったから新しいものを受け入れられず、昔はよかったと思い返しているわけではないのかもしれません。
年齢を問わず私たちには、1年の終わりや当分経験できないなど一時的に設けられた「最後」を意識したとき、新しい体験を避けて馴染み深い体験を繰り返そうとする「懐古主義」が現れるようです。
参考文献
When endings approach, people choose the familiar over the novel
元論文
Ending on a familiar note: Perceived endings motivate repeat consumption