セダンと同じ高性能31psエンジンを搭載
軽乗用車をベースとしたボンネット型ライトバンと言えば、現在ではすっかり廃れてしまったジャンルだが、かつては初代スズキ・アルトのヒットを契機として、一時代を築いたスタイルでもあった。もちろん、それ以前から存在していたジャンルであるのだが、今回はそんなアルトより前の時代の軽ボンネットバンから、ホンダのLNⅢ360のカタログをお見せしたい。
その前に、実車について簡単に説明しておこう。トラックやスポーツカーではなく、セダン(2ボックスだが)としてはホンダ初のモデルである軽自動車・N360が発表されたのは、1967年3月のこと。その3ヶ月後の1967年6月に、このN360をベースとしてラインナップに加わったライトバン仕様が、LN360である。リアを寝かせた形状のN360のボディ後半を四角い形に変更したモデルで、エンジンはN360と同様に、空冷2気筒OHC 354ccの高回転型ユニット(最高出力31ps)を搭載していた。最大積載量は2名乗車で300kg、4名乗車で200kg。当初は単一グレードであったが、後に豪華版のLN360Mも追加されている。
1969年1月にはN360とともにマイナーチェンジを実施。NⅡと呼ばれるモデルであるが、車名はあくまでN360/LN360である。NⅡでの改良点として知られている大型のサイドマーカーや、フルパッドのダッシュボードなどは、LN360にも同様に装着されていた。グレード構成はスタンダード/デラックス/スーパーデラックスの3種に進化。
1970年1月には、Nシリーズは再びマイナーチェンジを実施。今度はフロントのデザインを大きく変更し、シェルビー・マスタング風の彫り深い顔立ちとなった。今度は車名がNⅢ360/LNⅢ360と、明確に改められている。LNⅢ360の変更箇所はNⅢ360とおおむね同じだが、テールランプはNⅢ360とは違って初期の大きさから変わっていない。 この1年半近く後、NⅢ360は1971年5月に後継車ライフへとモデルチェンジしており、ライフのバンはやはり3か月遅れて1971年8月に発表、翌月発売されている。
ワゴンじゃないのにシティ・ワゴン?
このLNⅢのカタログは1970年1月発行で、マイナーチェンジと同時に作られたものということになる。サイズは300mm×220mm(縦×横)、ページ数は表紙を含めて全20ページ。カタログのつくりとしては、セールスポイントを的確に訴求する堅実なもので、写真の撮り方なども表紙を別とすれば特に奇をてらったカットはない。人物を多めに、大きく配したカットが多い(お見せしている画像では若干省略した)のは、この当時の商用車カタログによく見られる特徴だ。
特に前半のページを見ていると目につくのは、乗用車としての使い方もカバーしてアピールされていることで、キャッチには「シティ・ワゴン」などという単語も使われている(このモデルはあくまで商用登録のバンでしかない)。これは後年の初代アルト以降に見られる軽ボンバン的な、本来は軽乗用車である車両を商用登録で安価に維持しようというような意味ではなく、商店主などが仕事に使うライトバンを、プライベートでも乗用車代わりに使うことが多かったためで、メーカー自身もそういう使い方を勧奨していたからである。
グレード構成はスタンダード/デラックス/Rデラックス/スーパーデラックスの4種類。Rデラックスの「R」の意味は不明だが、Rデラックスからリクライニングシートを省略したモデルがデラックスであることを考えると、「reclining」の頭文字であろうか。また、リアゲートは上下開きが基本であるが、スタンダードのみには横開きも用意されていた。
現在の感覚からするとバンにしては妙にグレードが多い気がするのだが、まだまだ自動車の購入が容易でなかった時代、前述のような使い方が多かったことも考えると、販売台数にバンが占める割合は小さくなかったのであろう。とは言え「大衆車元年」と言われる1966年からすでに4年、そうした状況にもそろそろ変化が出てきていたのではないだろうか。車両自体も1970年代的にアップグレードされてきた部分と、ベースであるN360自体の古さとの乖離が目立ってきている。そうした部分も含めてお楽しみいただければ幸いだ。
文・秦正史/提供元・CARSMEET WEB
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