ウクライナ産穀物を運ぶ船舶が17日、トルコのイスタンブールに向かって出航したが、ウクライナ産穀物輸出の最後の航行となる可能性がある。黒海経由の水路ではなく、鉄道や陸路で穀物を運ぶることも出来るが、輸送コスト、輸送量などから採算が合わないと受け取られている。紛争の開始以来、ウクライナは東欧諸国を経由して穀物を輸出しているが、鉄道軌間が異なるなど、物流上の問題もある。
ところで、中国とトルコ両国はウクライナ産の穀物輸出を支持している。中国はウクライナから穀物を輸入している。エルドアン大統領はロシアとウクライナの間を仲介し、穀物輸出を続行させてきた立役者だ。それだけに、エルドアン大統領や中国の習近平国家主席がプーチン大統領に穀物輸出再開を説得する道は残されている。
ウクライナ戦争が勃発して以来、既に500日が過ぎた。ウクライナに侵攻したロシア軍はブチャの民間人虐殺、マリウポリの大量破壊、医療機関への砲撃、エネルギー・水道のインフラ破壊、そしてウクライナ南部へルソン州でドニプロ川に設置されたカホフカ水力発電所のダムを破壊してきた。ここにきて世界向けのウクライナ産穀物の輸出ストップを実行するなど、プーチン大統領はウクライナとの戦争に勝利するためにあらゆる手段を駆使してきた。プーチン氏はまた、ザポリージャ原発への砲撃、戦略核など大量破壊兵器の使用すら示唆してきている(「『ダム破壊』が戦争の武器となる時」2023年6月9日参考)。
世界の穀倉地ウクライナではスターリン時代、ウクライナで収穫された穀物はモスクワに送られ、ウクライナ人には与えられなかった。歴史家が後日、「ホロドモール」と呼ぶ大飢餓で数百万人以上のウクライナ人が亡くなった。スターリンの食糧政策の失策による人災ということから、「スターリン飢餓」とも呼ばれている。そして今、プーチン大統領はウクライナ産の穀物輸出を停止させようとしている。ウクライナの豊かな穀物は過去、そして現在も独裁者の武器に利用されているわけだ(「ウクライナ人の悪夢『ホロドモール』」2023年3月4日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?