記憶力は握る拳の左右に影響を受けているかもしれません。
アメリカのモントクレア州立大学のルース・プロッパー(Ruth Propper)氏らの研究チームは、覚える時と思い出す時に拳を握ることで記憶力が良くなることを報告しています。
ただし、単に拳を握れば良いわけではなく、覚える時に右の拳を、思い出す時に左の拳を握る必要があるようです。
このような現象が生じる理由について、論文では記憶時に活性化する脳の部位の非対称性を用いて説明されています。
研究の詳細は、学術誌「PLOS ONE」にて2013年4月24日に掲載されました。
握る拳によって記憶力は変わるのか?
モントクレア州立大学のルース氏らの研究チームは、記憶する時と思い出す時に拳を握ることで記憶力が変わるのかを検討しています。
研究チームは右利きの大人51名を対象に、72個の単語を記憶し、思い出す課題をこなしてもらいました。
実験参加者は、記憶する時と思い出す時の握る拳に違いが出るように、一致(左-左 / 右-右)・不一致(右-左 / 左-右)の4つのグループと拳を握る動作をしないグループにランダムに分けられました。
そして、記憶時と想起時の握る拳の左右によって思い出すことができた単語の数と正答率を比較しました。
記憶時に右の拳を、想起時に左の拳を握ると記憶力が高まった
実験の結果、記憶時に右の拳を握り、想起時に左の拳を握った場合には、他の条件と比較して、思い出した単語数が多いことが確認されました。

また記憶時に右の拳を握り,想起時に手の拳を握った場合には、思い出した単語の正答率が最も高いことも分かっています。

記憶時に右手の拳を握り,想起時に左手の拳を握った場合と何も動作をせず記憶し、想起した統制群に統計的に有意な差がなかったのは、サンプル数が少ないことが原因だと研究チームは述べています。
握る手によって記憶力が変化する理由とは?
今回の研究結果は、記憶時と想起時の握る手によって、記憶力が変化することを示しました。
論文では、握る拳の左右によって記憶力が変化する理由として、記憶・想起時に活性化する脳の部位に関連があるのではないかと述べられています。
2003年にカナダのロットマン研究所のリザ・ハビッブ(Reza Habib)らが記憶時と想起時に関連する、脳の前頭葉の働きに非対称性があることが報告しており、HERA(Hemispheric encoding/retrieval asymmetry)理論にまとめています。

HERAモデルでは、左側の前頭葉は経験した出来事をエピソード記憶として記憶するときに、右側の前頭葉・前頭前野はエピソード記憶を思い出す時に活性化するとされています。
そして右半身は左脳が、左半身は右半身が司ることから、右の拳を握るときには左脳に神経伝達が、左の拳を握る時には右脳に神経伝達が送られます。
このように記憶時に右手を、想起時に左手を握ることで覚えた情報をよく思い出すことができるのは、手を握ることで記憶時と想起時に関連する脳部位の活性化が促進されるからだと考えられています。