水中生活へと適応した哺乳類は、2度と陸には戻れない可能性が浮上しました。
ご存じのように、イルカやクジラは元々、陸上にいた哺乳類が海へ戻ったことで誕生した生物です。
他にも、水中生活に戻りながら上陸もするもアザラシやカワウソのような種もいます。
スイス・フリブール大学(University of Fribourg)は今回、5000種以上の哺乳類を対象に、どれくらいの割合で水中適応の進化が起きているのか、また水中適応は不可逆的であるかどうかを調査。
その結果、水中に完全に適応しているほど、陸に戻れる可能性はほぼ0%に近づくことが明らかになりました。
イルカやクジラが地上を歩き回ることはもうないかもしれません。
研究の詳細は、2023年7月12日付で科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。
水中に完全適応すると2度と陸に戻れない?
研究チームは今回、現生種と絶滅種を含めた計5635種の哺乳類の進化データを分析しました。
このデータには、サイズ・運動能力・感覚器官・繁殖・食性・肺活量の変化が含まれています。
その結果、全体の実に96.7% (5449種)は完全な陸上生活のまま進化を続けていました。
対して、水中適応への進化を行ったのは全体のわずか3.3% (186種)にとどまっています。

さらに水中適応の程度の差に応じて、以下の3つのグループに分けられました。
1つ目はカモノハシやミズオポッサム、ミズトガリネズミのような半水生の哺乳類で、チームはこれを「A1」と表記しています。
2つ目はアザラシやアシカのようにほとんど水生に適応しながら時々陸にも上がる哺乳類で、「A2」と表記されています。
そして3つ目がイルカやクジラ、ジュゴンのような完全に水中適応した哺乳類で、「A3」と表記されています。
ちなみに、完全な陸上哺乳類は「A0」です。
さらに、A0〜A3の間の進化がどのように起こっているか調べたところ、陸生(A0)と半水生(A1)の間の進化はかなり双方向に生じており、半水生になったとしても再び完全な陸生に戻れることが示されました。
一方で、水中適応が進むほど進化は不可逆になっており、A2やA3から逆方向に進化する例は起きていなかったのです。

よって、完全に水中適応したイルカやクジラが陸生方向に進化する確率は限りなく0%に近いと考えられます。
では、水中への完全適応が陸生への回帰的な進化を妨げる原因とは何なのでしょうか?