難民・移民対策ではハンガリーに対する批判が強い。例えば、オルバン首相は国内で拘留中の外国人の不法移民密入国業者を早期釈放して、国外に追放している。この措置は密入国業者への恩赦ではない。外国人の移民密入国業者を刑務所に長期間収容し続けるためには経費がかかるからだ。もう少しシンプルにいえば、経費削減策だ。
ブタペスト発のニュースが届くと、ウィーンとブダペストの間で外交的緊張を引き起こしたほどだ。オーストリアのシャレンベルク外相は5月21日、ハンガリーのシ―ヤールトー外相と会談して、ブダペスト側の意図について話し合っている。
公式情報によると、ハンガリーでは現在、73カ国から約2600人の外国人が刑務所に収監されており、その大半が密入国で有罪判決を受けた犯罪者だ。ハンガリーのメディアによると、セルビア、ルーマニア、ウクライナからの密航者700人が既に釈放された。ただし、釈放から72時間以内にハンガリーを出国しなければ、直ちに再逮捕される(「ハンガリー政府の経費削減の『奇策』」2023年5月24日参考)。
なお、今回のウィーンの首脳会談について、オーストリア野党第一党「社会民主党」(SPO)の安全保障担当広報担当、ラインホルト・アインワルナー氏は、「会談はオルバン氏にとって虚偽を広め、オーストリアを脅迫する舞台となっただけだ」と述べた。一方、極右政党「自由党」(FPO)のキックル党首はハンガリー首相の「ゼロ移民」政策をオーストリアの模範とみなしている。同党首は「ネハンマー首相はオルバン氏と話し合うだけでなく、不法大量移民に対してオルバン氏のように行動すべきだ」と発破をかけている、といった具合だ。
中国の習近平国家主席は新型コロナウイルスのパンデミックに対し、「ゼロコロナ」(Zero-Covid)政策を実施し、感染が終息に向かった時にも「ゼロコロナ」に拘った。その結果、中国の国民経済に大きなダメージを与えたことはまだ記憶に新しい。同じように、オルバン首相は「ゼロ移民」(Zero-Migration)政策を実施し、ブリュッセルの「移民受け入れ枠」を拒否する一方、人身売買業者を刑務所から追い払うなど、「ゼロ移民」政策のために徹底した“ハンガリー・ファースト”を実行している。オルバン首相の「ゼロ移民」政策は共同移民政策を目指すブリュッセルにとって大きな障害となってきている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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