女王を衰弱させた「化粧品」の成分とは?

ヴェネチアン・セルーズは、顔の美白にとても有効な化粧品でしたが、原料に「鉛白(えんぱく)」という白色顔料が使われていました。

鉛白は今では有毒な化学物質であることが知られており、鉛中毒を起こして、抜け毛や肌の劣化を招きます。

ヴェネチアン・セルーズを愛用したエリザベス1世も、この症状に悩まされることになりました。

※ ちなみに、日本で古くから重宝された「白粉(おしろい)」にも鉛白が使用されていました。

こちらも鉛中毒が問題になり、明治に入って、無鉛白粉が発明されるとともに、1900(明治33)年には鉛白粉が使用禁止となっています。

また、口紅の染料には辰砂(しんしゃ)が使われており、これはよく知られている通り毒性の高い「水銀」を主成分とする鉱物です。

水銀中毒は、うつ病や記憶喪失の原因となり、最悪の場合は死に至ることもあります。

加えて、エリザベス1世は、抜け毛を隠すためにかつらをつけ始めたのですが、そのかつらも辰砂で赤く染められていたのです。

辰砂の結晶
Credit: ja.wikipedia

さらに悪いことに、エリザベス1世は、メイクによる容姿の衰えをメイクによって隠そうとしました。

皮膚が劣化していくにつれ、化粧の量を増やす悪循環に陥ったのです。

それから、化粧を1週間もつけっぱなしにすることが多く、鉛や水銀がどんどん体内にしみ込んでいきました。

次第に、彼女は心身ともにボロボロの状態になり、後年に深刻なうつ病を発症したのは有名な話です。

彼女はもはや、宮廷のどの部屋にも鏡を置くことを拒みました。

また記録によると、うつ病の他に、認知能力の低下とせん妄(時間や場所がわからなくなる見当識障害)の兆候も見られたといいます。

後年のエリザベス1世の肖像画(1595年頃の作品)
Credit: en.wikipedia

しかしどれだけボロボロになっても、女王の仕事を投げ出すことはありませんでした。

彼女は一度座れば、二度と立ち上がれなくなることを恐れたのか、休むことなく、何時間も立ち続けて政務に当たりました。

医師に自分の体を診断させるのも固く拒んだといいます。

彼女はすでに自分の死期を悟っていたのかもしれません。

その後、エリザベス1世は、スコットランドのジェームズ6世を後継者に指名したのち、1603年3月24日(69歳)に静かに息を引き取りました。

死後の解剖が行われなかったため、正確な死因については定かでありません。

一説には、がんや気管支炎が原因だったとする意見もあります。

しかし、数十年にわたるメイクの蓄積が、彼女の死期に関係していた可能性は高いでしょう。

参考文献

Was Queen Elizabeth I Killed by her Poisonous White Makeup?

提供元・ナゾロジー

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