先日、ホンダXL750 TRANSALPが日本国内でも発売されました。TRANSALP(トランザルプ)が国内モデルとしてラインナップされるのは、1991年に発売されたトランザルプ400V以来のことなので、トランザルプと聞いて懐かしさを覚えたアラフィフ・ライダーも多いことでしょう。
新型トランザルプの紹介と歴史を紹介していきましょう。
世界的に人気が高まっているミドルクラスアドベンチャー
ホンダはCB500X(国内モデルは400X)やCRF1100L AfricaTwinといったアドベンチャーモデルをラインナップしていますが、世界的に人気が高まっている600~800ccのミドルクラス・アドベンチャーモデルは2012年に生産を終了したXL700V TRANSALP以来不在でした。新型トランザルプはその間を埋めるべく、ロードモデルCB750 HORNETと同時開発されました。
エンジンは新設計の水冷OHC4バルブ直列2気筒754㎤で、270°位相クランクを採用するなど、ヤマハテネレ700やスズキVストローム800DEと同様のレイアウトです。足まわりは前輪21インチ、後輪18インチホイールを採用し、スイングアームはCRF1100Lと共通化されるなど、当初はテネレ700のようなオフロード性能に特化したモデルとして開発がスタートしました。
しかし、今人気のアドベンチャーモデルに求められているのは高いオフロード性能ではなく、快適なオンロード性能と石畳やフラットダートなどを安心して走破できるオフロード性能が両立し、誰も扱いやすさを感じるようなバランスがとれていること、とホンダは判断。CRF750Lではなく、XL750 TRANSALPとして完成したのです。
オールラウンダーという
初代から不変のコンセプト
筆者も新型トランザルプに試乗しましたが、車体はアドベンチャーモデルらしいボリュームですが足着き性は意外とよく、重心バランスもいいおかげで乗った感じは軽快でした。トルクが粘ってくれるのでエンストの不安がなく、低中速域を多用する林道や、ゴー&ストップの多い街乗りも安心感がありました。ウインドスクリーンはコンパクトですが整流効果が高く、高速道路は快適そのもの。この整流効果は市街地やワインディングでのハンドリングの軽快さにも貢献しているようで、前輪21インチと大径さを感じさせない爽快なコーナリングも楽しめました。
そんな試乗中に、「昔乗ったことがある、トランザルプ400Vに似ているな」なんて思っていました。排気量、エンジンレイアウト、車体の取りまわしも違いますが、クセがなくて扱いやすく、街乗りからロングツーリングまでオールラウンドに使いこなせる頼れるギア、という感じが似ていると思ったのです。林道の舗装化や廃道化が進み、自宅から林道までのアクセスに高速道路を使うことが増えた今、トランザルプのオールラウンダーというコンセプトが上手くはまる、とも思いました。
日本国内での使い方にマッチしていた『トランザルプ400V』
1991年に国内発売されたトランザルプ400Vは、当時大人気とはなりませんでした。ホンダブロスプロダクト・2のエンジンをベースに、点火形式をバッテリーCDIに変更するなど、グローバルモデルとして開発されるのが当たり前になった現在とは違って、国内専売モデルとして登場。当時のインプレッションでも、「アフリカツインより軽快感があって、高速道路も快適。それでいて林道も走破できるオフロード性能がある。アフリカツインより日本に合っている」と、高評価を得ていました。
当時はレーサーレプリカからカワサキゼファーといったネイキッドに人気が移行し、ヤマハセロー225も根強い人気となっていましたが、オフロードモデルは2スト250クラスが主流でした。未舗装の林道が大都市近郊に点在し、オフロードの耐久レース「エンデューロ」も全国各地で毎週末開催されるほどの人気だったこともあって、高速道路で長距離を移動してツーリングをゆったり楽しむより、近場の林道をとばして走るライダーが多かった記憶と体験が筆者にはあります。また、舗装路と比べて未舗装路は転倒の危険性も増し、車検があることも、カウル付きのトランザルプ400Vのデメリットとして感じていました。
そんな記憶を裏付けるように、1992年の「ガルル」誌に掲載された251cc以上オフロードバイク人気ランキングでは、1位ホンダアフリカツイン1万300票、2位ヤマハアルテシア6000票、3位カワサキKLE400の2900票に次いで4位にランクインでしたが、得票数は700票でした……。また当時のキャンペーンとして、新車価格57万9000円(これでもかなり安い!)を51万9000円で販売するショップもあったなど、オールラウンダーとしての魅力は広く伝わりにくかったのです。
マイナーチェンジしつつも国内モデルは終了……
海外ではロングセラーの人気モデルだった
1994年にはカウル形状の変更やリヤキャリヤにフックを装備するなど、高速巡行性能や使い勝手を向上してマイナーチェンジするも、国内モデルとしては最終となりました。
海外ではその後も600→650→700と排気量をアップしつつ、2012年まで生産されたロングセラーの人気モデルでした。オンオフ性能がバランスした初代から、最終はややオンロード寄りな作りとなりましたが、特にヨーロッパでのタフな走行環境を走破していけるオールラウンダーというコンセプトは不変でした。そしてそのコンセプトを受け継ぎ、最新の装備で完成したのがXL750 TRANSALPです。
そのXL750 TRANSALPは、今、国内で林道ツーリングをするのに適した1台になっています。未舗装の林道は都市圏から遠く、とばすより景色や雰囲気を味わいつつ、ゆったりとツーリングしたい。環境の変化や筆者の成熟(老化?)などもあり、30年経ってようやく「オールラウンダー」の魅力に気付けたようです。当時のオフロードバイクは国産4メーカーが多数ラインナップするほどの大人気でしたし、だからこそトランザルプ400Vのような意欲作も開発されることになったのでしょうけれど、トランザルプ400Vは、いろいろ早かったバイクでしたね。