太陽は核融合の熱で燃え続ける巨大な恒星であり、表面温度は約6000℃に達します。

一方で、表面から約2000キロ上空の「コロナ」という大気層の温度は100万℃以上に達します。

「なぜ太陽は表面より大気(コロナ)の方がはるかに熱いのか?」

これは天文学の未解決問題として、現在も研究者たちを悩ませています。

そんな中、英ノーザンブリア大学(Northumbria University)が、この謎の解明に一石を投じる研究を発表しました。

舞い上がったプラズマが流星のシャワーのように再び落下する「コロナ・レイン(coronal rain)」と呼ばれる現象を詳しく観測したのです。

その結果、コロナ・レインは落下の際に周囲のガスを急加熱しており、これがコロナを表面より加熱する一因かもしれません。

研究の詳細は、2023年5月19日付でプレプリントサーバー『arXiv』で公開されました。

コロナ・レインの仕組みとは?

コロナ・レイン自体は10年以上前から知られていましたが、研究チームは2022年3月に改めて、欧州宇宙機関(ESA)の太陽観測衛星「ソーラー・オービター(SolO)」を用いた観測を実施しました。

SolOは観測のために太陽表面からわずか4800万キロ以内にまで近づいています。

これは地球と太陽の距離の3分の1に当たりますが、それでも太陽の灼熱度合いを考えると「わずか」と表現できるほどの近距離です。

そんなSolOの命がけの観測のおかげで、コロナ・レインの詳細なデータが得られました。

太陽表面には非常に強力な磁石を散りばめたような複雑な磁力構造があり、N極の領域からS極の領域へと強い磁力の流れが生じてループ状に繋がっています。

磁力線を目で見ることはできませんが、この流れに沿ってプラズマ(物質)が大量に移動すると、輝くループ構造として観測で見えるようになります。

コロナ・レインは以下のように、磁力線を移動するプラズマがループの上部で崩れるように太陽表面へ落ちていく現象です。

コロナ・レインの映像
Credit: NASA Goddard – NASA | Fiery Looping Rain on the Sun (youtube, 2013)

これがまるでシャワーのように見えることから「コロナ・レイン」と呼ばれます。

コロナ・レインは、それが水ではないということを除けば地球上の雨とよく似た物理現象です。

加熱され磁力線に沿って太陽表面から上空へ移動したプラズマは、上昇するにつれて温度が下がり、凝縮することで幅250キロメートルに達する超高密度のプラズマの塊となります。

この巨大なプラズマの火球が、重力に引かれ秒速150キロという猛スピードで太陽表面へ落ちていくのです。

赤い線がコロナ・レインの経路の一部(撮影:2022年3月30日)
Credit:Patrick Antolin/ Royal Astronomical Society(2023)

SolOの観測では、このコロナ・レインの塊の最初の超高解像度画像を得るとともに、このときプラズマ塊の真下のガスは加熱と圧縮によって最大100万度まで加熱されていることを発見しました。

そしてこの温度はプラズマ塊が落下する数分間続いていました。

上空から巨大な塊が落下するこの現象は、地球においては雨と呼ぶより流星に似た状態だと研究者は話します。

しかし太陽コロナは地球の大気に比べてはるかに低密度であるため、流星のように大気摩擦によって表面が剥ぎ取られて欠損したり、スピードが落ちたりすることがありません。

そのためこの100万度近くに加熱されたプラズマ塊はそのままの熱と勢いで太陽表面に衝突し、その衝撃が物質を急激に上部へ押し戻し、コロナを再加熱する衝撃波を発生させている可能性が示されました。

これは太陽表面よりはるかに高温なコロナの100万度という高熱がどこからもたらされるかという問題の一端を説明する可能性があります。

ただ、地球ではこうした流星は後方に尾を作るように衝撃を伸ばしますが、太陽表面では複雑な磁場により、プラズマの圧縮された熱やガスがどのように移動していくかを追うことは非常に難しい状態にあるといいます。

そのため研究者らは、こうした太陽の仕組みとプロセスがコロナの温度を高めている要因の一つかもしれないと考えていますが、正確なところはまだ不明です。

2022年4月1日に撮影
Credit:Patrick Antolin/ Royal Astronomical Society(2023)

研究主任のパトリック・アントリン(Patrick Antolin)氏は「コロナ・レインの仕組みを解明することは太陽物理学にとって大きな前進となる」と説明。

「なぜなら、どうしてコロナが100万℃以上まで加熱されるのかなど、太陽の主要な謎について重要な手がかりを与えてくれるからです」と続けました。

全体が高温ガスからなる太陽は、中心部で核融合を起こして莫大なエネルギーを生み出しています。

中心温度は1600万℃という実感すらできない灼熱になっており、そこで作られた光は約100万年もかけて太陽表面に達するという。

表面に伝わったこのエネルギーが様々な太陽活動を引き起こしていますが、今回のコロナ・レインも含めて、太陽を完全に理解するにはまだまだ多くの調査が必要となるでしょう。

参考文献
Meteor-Like ‘Shooting Stars’ Discovered in The Sun’s Atmosphere
Solar astronomers discover ‘shooting stars’ on the Sun’s corona

元論文
EUV fine structure and variability associated with coronal rain revealed by Solar Orbiter/EUI HRIEUV and SPICE