地雷除去作業の支援は中立主義という立場から見れば、明らかに無理がある。地雷除去作業中、ロシア軍と衝突し、戦闘になった場合、オーストリア連邦軍は中立主義だからといって戦いを放棄し、逃げ去ることはできない。だから、人道的な地雷除去活動といっても戦闘が行われているウクライナでの活動は中立主義と一致しない。一方、「スカイシールド」参加はあくまでも国内の空域防衛を目的としたものだ。NATOのように加盟国への支援義務はないから、「中立主義とスカイシールド参加は矛盾しない」という声が現時点では支配的だ。

問題もある。機材選定からその経費までまだ不明だ。「スカイシールド」は2025年に実施する計画だが、それまで参加国との間で新たな議論が生まれ、中立国にとって困難が生まれてくるかもしれない。ちなみに、NATOの主要国フランスやイタリアは参加していない。マクロン大統領は「スカイシールド」で導入する空域防衛システムは欧州独自のものであるべきだと主張し、米国やイスラエル製のミサイルシステム「アロー3」の導入には異議を唱えている。

中立国オーストリアで今年に入り、①ウクライナでの地雷除去作業の支援、②「スカイシールド」参加問題、といった2件の問題が出てきたわけだ。いずれも国是の中立主義と密接に関わるテーマだ。オーストリアがこの試験をどのように解決するか、目が離せない。

なお、スイスのベルンで7日、ドイツ、オーストリア、スイス3カ国の国防相会議が開催されるが、その際、オーストリアとスイス両国は共に「スカイシールド」に参加する「意思表明書」に署名する予定だという。オーストリア国営放送(ORF)が4日、速報した。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?