「プリゴジン反乱」から1週間が過ぎた。ロシアのプーチン大統領は、自身が飼い馴らしてきたエフゲニー・プリゴジン氏(62)が同氏が創設した民間軍事組織「ワグネル」を率いてモスクワに進軍していると聞いた時のショックから立ち直ると、反乱後の処理に素早く乗り出してきた(「『プリゴジン反乱』後のロシア情勢」2023年6月27日参考)。

一代でメディア・経済・軍事関連の帝国を築き上げたエフゲニー・プリゴジン氏 Wikipediaより
プーチン氏が最初に手を付けた反乱の後始末は、プリゴジン氏にモスクワ進軍するよう発破をかけ、ショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長の解任をそれとなく唆した影の役者、ロシア軍の幹部(スロビキン上級大将)の拘束だったのは当然だろう。
プーチン氏はプリゴジン氏が自身の政権打倒を目指していたのではないことを知っていた。ワグネルへの武器供給を拒否するだけではなく、ワグネル兵士を砲撃したロシア正規軍、特にショイグ国防相への怒りが反乱の主要動機であったことを理解していた。だから、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介を受け、プーチン大統領はプリゴジン氏との間で「プリゴジン氏とワグネル軍の兵士たちを国家転覆の極刑に問わず、恩赦する一方、ベラルーシへの出国を認める」という内容で合意したのは頷ける。
プーチン氏の対応を同氏の統治力の弱体と解釈することは少々早計だろう。プーチン氏とプリゴジン氏の間には共通点があるからだ。例えば、プリゴジン氏はロシア正規軍に不満を持っているが、プーチン氏もその点では同じだ。プーチン氏はウクライナ戦争でのロシア正規軍の無残な戦果にロシア軍指導部に対する不満が溜まっている。プレゴジン氏もモスクワ進軍を断念し、ロストフナドヌーに戻った時、「自分はプーチン大統領を打倒するためにモスクワに進軍したのではなく、腐敗したロシア正規軍幹部たちを追い払うためだった」と説明している。
プーチン大統領は現在、その情報機関を総動員してスロビキン上級大将の周辺、プリゴジン氏が築き上げた「プリゴジン帝国」の解体に乗り出している、という情報がモスクワから流れてくる。プリゴジン氏に近かった2、3の銀行副頭取やビジネスマンが高層住宅のベランダから落下して亡くなるという不審な事件が起きている、といった類のニュースだ。
その一方、プリゴジン氏はベラルーシとロシア間を自由に行き来し、ワグネル傭兵への対応、自身が構築した様々な経済活動の処理などに乗り出しているという。ただ、その真偽を確認することは難しい。