このように、クライアント自身がすべての問題に気づけているわけではないのです。そこに士業の活路があります。ほかにも、相続手続きは借金等のマイナスの相続財産まで特定でき、無事相続手続きが済んだとしても、相続税の検討がされていなかったら、せっかく相続した不動産を相続税の支払いのために売却しなければならない、ということも考えられます。
当然、質問に答えるだけで様々な手続きもやってくれません。
顧客の潜在的ニーズをいかに引き出すか?つまり、士業が生き残るための活路は、潜在的ニーズを引き出すことにあります。もちろん、その潜在的ニーズを引き出すためには、ヒアリング力やそのベースとなる人間関係の構築。そしてその潜在的ニーズに対応できる知識量や提案力が必要です。
これは企業法務などでも同じです。行政手続きのオンライン化やAIの台頭でその存続が危ぶまれています。行政書士は各種の許認可取得手続きを主な業務としています。単に手続きだけを行っていたらAIに取って代わってしまうでしょう。手続きにはゴールがありますので、そういう意味ではAIとの相性も良いと言えます。
となれば、顧客と接点があったときに、単に相談を受けるのではなく、経営に関するヒアリングをきちんと行い、その情報から様々な提案をすることが重要です。
ヒアリングから仕事が生まれる。例えばヒアリングの結果、この企業には受給できる補助金や助成金がある、あるいは決算書から見ると金融機関からの借り入れにベストな時期であるなど、相続の相談と同じく、経営者にも気づいていない問題やニーズがあるものです。
ヒアリング力を起点とした潜在的ニーズへの提案はあくまで士業が生き残るためのひとつの技術です。ほかにも士業として存在し続ける様々な考え方や技術があり、メディアで言われるほど私は悲観的には考えていません。
しかしながら、単に資格を取っただけ、従来通りの代行的な定型業務だけで士業の経営が厳しいことは言うまでもありません。国家資格を取るだけでも大変ではありますが、士業はよりこうした技術研鑽や高度専門領域、ニーズを汲み取るスキルを持つための努力が求められます。前向きな見方をすればより努力が報われると見ることもできます。
最後にもう一つだけ付け加えると、士業はオワコンという意見が増えてそれを鵜呑みにする人が増えるのなら、ライバルが減って有利になります。自分の頭で考えられない人が増えるほど、自身の頭で考えて失敗を恐れずチャレンジする人は有利になります。
筆者は今後も士業向けコンサルタントとしてAI時代に士業が生き残るための技術、そして考え方の研究とリサーチを続けていくつもりです。
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古尾谷 裕昭 税理士 ベンチャーサポート相続税理士法人代表税理士 1975年生まれ、東京都浅草出身。2017年にベンチャーサポート相続税理士法人設立。相続専門の司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社・保険販売代理店・金融商品仲介業者からなるベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を代表税理士として率いている。10万人のチャンネル登録者数のYouTube『相続専門税理士チャンネル』を運営。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年6月26日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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