上記のダニロフ書記官が「プーチンを悪魔と呼ぶべきだ」と要求したウクライナ正教会はUOKだ。ウクライナ側は、UOKはロシア正教会から別れ、プーチン大統領のウクライナ侵略を非難してきたが、依然モスクワと協力している、との疑いを持ち続けている。そのため、UOK関連の施設をこれまで数回捜索してきた。そして今回、ダニロフ書記官はテレビの前でUOKに対し、プーチン大統領、そして大統領の戦争を支持するロシア正教会最高指導者キリル1世を「悪魔」と呼ぶべきだと要求したのだ。

同書記官の要求は、世界的に有名なキーウ・ペチェールシク大修道院にある正教会の所在をめぐる論争の中から飛び出したものだ。ウクライナ指導部はUOKに対し、モスクワから距離を置くよう強く求めてきた。キエフの洞窟修道院に対する教会のリースは、年の変わり目に終了するのを受け、パヴェル・レベジ洞窟修道院長は、ウクライナのゼレンスキー大統領にリースの延期を求めてきた経緯がある。

ウクライナ戦争では、ロシア軍によるマリウポリの廃墟化や“ブチャの虐殺”など多くの民間人が虐殺されてきた。ウクライナ国民にとって、ロシア軍、そしてその最高指導者プーチン大統領は悪魔のような存在だ。その戦争を支持する精神的指導者キリル1世に対しても同様だろう。主権国家に一方的に侵攻し、戦争犯罪を繰り返すロシア側は侵略者と呼ばれても弁解の余地はない。

一方、キリル1世は低堕落の西側社会を「悪」と呼び、ロシアを正義として信者に「善悪の戦い」を呼び掛けてきた。キリル1世はロシアのプーチン大統領を支持し、「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学的闘争だ」と強調し、西側社会の退廃文化を壊滅させなければならないと強調する。

中途半端な勝利は許されないから、戦いには残虐性が出てくる。相手を壊滅しなければならないからだ。ロシア正教会から離脱したウクライナ正教会に対し、モスクワでは「サタン宗教」と呼ぶ声が聞かれるほどだ。

ダニロフ書記官が今回、UOKに対し、ロシア側と同じ土俵に上がって「プーチン氏とキリル1世はサタン」と叱責したわけだが、賢明とはいえない。喜ぶのは、悪魔だけだ。紛争を不必要にエスカレートさせ、停戦の可能性を一層難しくさせてしまうからだ。それこそ悪魔の仕業だ。

いずれにしても、ロシアの戦争犯罪行為は国際社会の法廷で裁くべきテーマだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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