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研究員 橋本 量則
はじめに昨今、地政学という言葉を聞かない日はないほど、地政学は市民権を得てきている。だが、地政学が実際にどのような学問であるのか、一般にそれほど理解が深まっているわけではない。
そこで、本稿では、地政学とはどんなものか、とりわけ日本にとって重要な海上権力、つまり「シー・パワー」とは何かを簡単に説明したい。その上で日英関係の進むべき道を考えてみたい。
地政学とは地政学とは何か。一言で言えば、地理的要因が政治・軍事に与える影響について研究する学問である。果たしてこれが真の学問であるか否か、つまり、虚構論理ではないのかということに関して議論が尽きないところではあるが、同じことは程度の差こそあれ、国際政治学、国際関係論にも言える。この社会科学系の学問が持つ虚構性の問題については、本稿の目的ではないのでこれ以上は扱わない。
ただ、1つ確実に言えることは、国際政治の舞台で重要な役割を果たす国の政治家、軍人はこの地政学をよく学んでおり、彼らがそれに基づき国を動かすことによって、地政学は現実世界に生き抜く上で必須の知識・術になっているということである。日本は戦後、これをGHQによって禁じられてしまったのである。
その地政学には、大きく分けて2つの系統がある。1つは大陸国家が採用する大陸型、もう1つは海洋国家が採用する海洋型である。前者を一言で言えば「(ユーラシアの)ハートランド(中心の土地)を制するものは世界を制す」であり、後者の場合、それが「海洋及びリムランド(ユーラシアの沿岸地域)を制するものは世界を制す」となる。
大陸国家は基本的に農業国家であり、資源も豊富で自給自足が可能である。一方、海洋国家は通商国家として交易で生きる。この生き方の違いが政治や軍事戦略の面での行動の違いとなってくるわけである。
海洋国家の代表例は、英国、日本、中世のベネチアなどである。大陸国家の代表例は、ロシア、中国、ドイツ、フランスなどである。その他に、半島国家というものがあり、大陸勢力と海洋勢力の狭間にあり、どちらかの勢力が強い場合はその勢力下に置かれ、両勢力が均衡すれば分断される運命にある。朝鮮半島、イタリア半島、そして、実は欧州大陸がこれに該当する。
では、米国はどれに該当するのであろうか。強力な海軍を持ち、それを世界に展開し、シー・パワーを維持していることから、米国も海洋国家と言える。だが、広大な領土を持ち、食糧と資源を自給自足できる大陸国家としての特性も併せ持つ。この点、英国や日本のような純粋な海洋国家とは戦略的思考が異なる。発想がどこか大陸国家的・覇権主義的なのである。