2023年5月から新型コロナウイルス感染症は5類感染症に移行し、マスクの着用や隔離する人の範囲が緩和されました。
人が感染症対策を緩和したことによるものなのか、5月からは季節外れのインフルエンザや感染性胃腸炎などが一気に流行り始めています。
どの病気もかかりたくはないものですが、なかでも酷い嘔吐や下痢を引き起こす感染性胃腸炎はやっかいです。
感染性胃腸炎はさまざまな種類のウイルスが引き起こしますが、多くは「ノロウイルス」が原因です。
ノロウイルスを始めとする感染性胃腸炎は爆発的に流行することがあるほど感染力が高い病気で、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症と同じく5類感染症です。
しかし、いまだに有効なワクチンは製品化されていません。
今回は、なぜまだノロウイルスのワクチンがないのか、今後ワクチン開発はどのように行われる見込みなのか解説します。
ノロウイルスはアルコール消毒も効果なし!実はかなり強力
ノロウイルスは嘔吐や下痢、時には発熱を引き起こし、日本だけではなく世界的に発生している腸管感染症です。
感染源は主に牡蠣などの二枚貝や、感染者の吐物及び便で、年間約7億人が発症し、約20万人が死亡しているため、人間にとって大きな脅威といえるでしょう。
ノロウイルスは熱と乾燥に強い性質で、85℃~90℃で90秒以上の加熱をしないと不活化しないうえ、ホコリに付着したまま空中を浮遊することもできます。
さらに、アルコールで破壊できるエンベロープという細胞膜を持たないためアルコール消毒は効果がなく、除去するためには次亜塩素酸ナトリウム水溶液(塩素系漂白剤など)による消毒が必要です。
新型コロナウイルス感染症の流行によりアルコール消毒が一般的になったことから、「アルコールで消毒さえすれば安心」と思っている人も少なくありませんが、残念ながらノロウイルスには効果が期待できません。
また、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は人体に有害なため、万が一汚染された箇所を皮膚で触れてしまったときは石鹸と流水で念入りに洗い流すしかありません。
「消毒方法が限られ、人体についたら洗い流すしかない」こういった特徴からノロウイルスの感染を防ぐのは、ほかのウイルスよりも難しいといわれています。
また、ノロウイルスは感染力がとても強く、ウイルス10~100個という少数でも感染することもあります。
ノロウイルスが付着した、ほんの小さなホコリを吸い込むことで感染することもあります。
そのため「一人のノロウイルス感染者が嘔吐すると同じ空間にいた人が次々と感染する」というようなことが、世界各地で実際に起こっています。
感染予防がかなり難しいノロウイルスに対して、ワクチンによる感染、発症、重症化予防を期待する人も多いのではないでしょうか。
しかし2023年6月現在、ノロウイルスのワクチンは日本のみならず世界的に製品化されていません。