ハキリアリは人類より遙か昔に「農業」を発明した驚くべき昆虫です。

彼らは自身の何倍も大きな葉っぱを切り出して巣まで運び、そこに菌を植え付けてキノコを栽培します。

さらに凄いのはハキリアリが毎回、機械のような正確さでキレイな半円や楕円形の葉を切り出すことです。

一体どのようにして葉っぱの切除をコントロールしているのか、これはハキリアリにまつわる長年の謎でした。

しかし今回、独ヴュルツブルク大学(University of Würzburg)がついに正確無比な「葉切り」に欠かせない秘密を突き止めたのです。

キーワードは「脚の固定」「首まわりの感覚毛」でした。

研究の詳細は、2023年6月22日付で科学雑誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されています。

ハキリアリが完成させた「農業システム」が凄い

ハキリアリは北米〜中南米の熱帯雨林に生息するアリです。

その名の通り、葉っぱを切ることを生業とし、自分たちの何倍も大きな葉を切り出して巣まで持ち運びます。

何百匹ものアリが列を作って帰路につくので、傍目にはまるでたくさんの葉っぱが地面を歩いているように見えます。

切り出した葉っぱを巣に持ち帰るハキリアリの列
Credit: ja.wikipedia

持ち帰った葉は広大な地下農場に貯め込まれ、そこに「アリタケ」と呼ばれるハラタケ科の菌類が植え付けられます。

アリタケは葉っぱを栄養源にして増殖しながらキノコへと成長していきます。

さらにハキリアリは農場に生えた雑草を引き抜いたり、自分たちのうんちを肥料として撒きながらキノコを栽培するのです。

葉の採集から持ち運び、地下農場でのキノコ栽培までの全体像
Credit: Universities of Copenhagen and Aarhus in Denmark – Fungal Farming in Leafcutter Ants(2020)

また農場には余計な雑菌が入り込むことがあり、そちらの雑菌が増殖しないように気をつけなければなりません。

そこでアリたちは、体表面に共生する特殊な菌が作り出す「抗生物質」を定期的にキノコ畑に塗り込んで、雑菌を退治しているのです。

小さなアリがこれほど管理された農業システムを完成させていることは極めて驚きでしょう。

しかもハキリアリのキノコ栽培が進化したのは今から5000万年前と言われています。

ハキリアリが葉っぱを持ち運ぶ様子
Credit: Deep Look – Where Are the Ants Carrying All Those Leaves? (youtube, 2015)

このようにハキリアリの農業システムの解明が進む一方で、彼らがいかにして葉っぱをキレイな半円や楕円形に切り出しているのかは不明でした。

そこで研究チームは「葉切り」のメカニズムを解明することにしたのです。