昔の話を持ち出して恐縮だが、モーツァルトとベートーヴェンもウィーンに住んでいたが、絶えず引っ越しを重ねている。なかなか同じ場所に居住できないのだ(当方はこれまで4回、引っ越ししてきたが、5回目は御免こうむりたいと考えている)。

観光客が増えれば、ウィーンは益々喧噪が増すことは間違いない。エコノミスト誌の「世界で最も住みやすい都市」のタイトルはその都市に住む市民にとって本当に「住みやすい都市」であるかは別問題だ。なお、ウィーン人口は移民の増加もあってあと数年で200万都市入りする予定だ。2020年の段階で約191万人だ。

フランスの作家、ロマン・ロラン(1866~1944年)は「ベートーヴェンの生涯」の中で、「ウィーンは軽佻な街だ」と書いていた。その評価は100年以上前のものだ。当方は不思議と「そうだよな」といった共感を覚えてきたが、最近はウィーンの懐の深さを感じ出してきている。

ウィーンに40年余り住んでいても「自分は外国人だ」という思いは消えない。何年住んでいても外国人であり続けるだろうといった一種の諦観だ。それにはウィーン生まれのウィーン子の世界には入れない、といった少々捻くれた思いが混ざっているのかもしれない。ただ、「世界で最も住みやすい都市」に住む外国人の一人として、当方はその恩恵には感謝している。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。