オーストリアとロシアは戦後から友好関係を維持してきた。欧米諸国がロシアに制裁を科す契機となったウクライナのクリミア半島の併合や英国に亡命した元ロシア人スパイの毒殺未遂事件についてもオーストリアは直接のロシア批判を避けた。多くの欧米諸国がロシア人外交官の国外追放制裁に出た時もオーストリアはロシア外交官の退去要請を避けるなど、ロシアの顔色を常に窺う外交を展開してきた。ちなみに、オーストリア連邦軍の退役陸軍大佐(70)が2018年11月、過去20年間以上にわたりロシア側にさまざまな情報を流していたことが発覚している(「退役陸軍大佐、ロシアに情報流す」2018年11月11日参考)
東西冷戦時代からオーストリアの首都ウィーン市には旧ソ連と欧米諸国のスパイたちが暗躍していた。彼らはいろいろな名目で潜伏しながら、歴史の舞台裏で活躍してきた。スパイたちがウィーンを愛する理由は、①ウィーンが地理的に東西両欧州の中間点に位置する、②オーストリアが中立国家である、③ウィーン市が第3国連都市である、④石油輸出国機構(OPEC)など30を越える国際機関の本部がある、等が挙げられる。そしてスパイたちは①自国大使館内の1等、2等書記官の立場、②ジャーナリスト、③国連職員や国際機関のスタッフという立場で暗躍する。
「会議は踊る」と揶揄されたことがあるウィーンでは、舞踏会のシーズンとなれば到る処からワルツが流れる。ウィーンっ子はモーツァルトやベートーヴェンの音楽よりも、ヨハン・シュトラウスのウィンナー・ワルツをより愛する。そのワルツに乗ってスパイたちが息を潜めながら舞い続けるわけだ(「スパイたちが愛するウィーン」)2010年7月14日参考)。
プーチン大統領は19日、治安部隊に対し、「外国の諜報機関の行動は直ちに鎮圧されなければならない。裏切り者、破壊工作員、スパイは捕まえなければならない」と強調し、スパイ活動の強化と共に外国スパイ活動の撲滅の檄を飛ばしている。
オーストリア内務省は先の39歳のロシア系ギリシャ人に対して、同容疑者が裁判開始前にモスクワに戻るならあえて拘束しないのではないか。オーストリアはロシアとの関係を険悪化させたくないからだ。だから、今回の件では国外追放で幕を閉じたいはずだ。ちなみに、ウィーン検察側は、「容疑者は逮捕されていない。差し迫った危険はなく、再拘留の条件を満たしていないからだ。そのうえ、EU市民は原則的に自由に旅行できる」と説明している。

walrusmail/iStock
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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