世界的ベストセラー「サピエンス全史」の著者、イスラエルの歴史家、ユバル・ノア・ハラリ氏は将来ビッグデータを使いこなす限られた人間が神のような存在「ホモ・デウス」と進化していくと語り、注目された(「人は『神』に進化できるのか」2021年10月29日参考)。

ハラリ氏の論理からすると、生成AIは次期「ホモ・デウス」に最も近い存在だろう。宇宙の進化からミクロの世界、そして人間の精神生活、心理世界をも完全に学習した生成AIが生まれれば、確かに「ホモ・デウス」となれる能力、知性を有することになる。一方、生成AIに懐疑的な人はそのような生成AIの誕生を恐れている。人間に代わって、AIが世界・宇宙を支配していく。SFの世界が、近い将来、現実の世界になっていくという懸念だ。

バングラデシュの経済学者、実業家で「マイクロ・クレジット」の創始者、2006年、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏は独週刊誌シュピーゲル(2023年6月10日号)とのインタビューで、「地球温暖化でわれわれが亡びる前に、AIは人類を殺す。AIが一度、檻から出たら、もはや誰も捕まえることはできない。チャットGPTはまったく問題がないと考えるのは余りにもナイーブだ。AIは仕事の道具ではなくなり、我々のボスとなるだろう。われわれはAIが命令することを忠実に行うだけだ」と、かなり悲観的な見通しを述べている。

インターネット運営の安全・保護を目的とした最大ネットワークの米企業「クラウドフレア」創業者マシュー・プリンス氏は同じくシュピーゲル誌で、「現在のAIはまだ2歳の子供だ」と指摘し、「近い将来、AIは我々に大きな問題を提示してくるだろう」と警告を発している。すなわち、2歳の生成AIは急速に成長していくというのだ。

2歳の子供とチャットし、その間違いを見つけたと喜ぶ初老の当方はまったく滑稽な存在と言わざるを得ないわけだ。その子供は年々、膨大なビッグデータを学習していくから、あと数年、GPT-4、GPT-5モデルが登場する頃には、当方との対話などには見向きもしなくなるかもしれない。

神は自身の似姿でアダムを創造し、そのアダムの後孫が生成AIを生み出した。問題は、AIシステムの考案者が、イエスや仏陀のように、愛する心、寛容、利他心だけではなく、憎しみ、妬み、利己心など負のDNAも有する人間であることだ。だから、慈愛溢れるAIだけではなく、利己心、憎悪、妬みを継承したAIが生まれてくる余地が出てくる。AIの未来もやはり人間の成長にかかっているといえるのではないか。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。