手入力は工夫が必要

Константин Сперов/Pixabay

ところが、マイナンバー登録作業では「手入力」を活用しているらしい。

6千人の個人情報、5人でパソコンに手入力…マイナカード混乱の現場:朝日新聞デジタル

朝日新聞の記事によると、「職員」5人で約5900人分のデータを入力したという。

嫌な記憶が蘇る。これもかなり昔、データ入力のアルバイトをしたときのことだ。

55分間入力し、5分間休む。これを1日8回繰り返す。入力件数が1000件を超えることもザラだった。タイピングが遅いと画面上に「警告」が出現し、急かされる。想像いただけると思うが、かなりキツい。夕方が近づくにつれ、ミスが増えていく。

ミスを防ぐため、この職場ではいくつか工夫がされていた。作業面と精神面、両方で。

データは二人で同じものを入力する。二人の入力データをプログラムで比較する。不一致があったらアラートを出して、やり直し。不一致がなければ、三人目のスーパーバイザーが最終チェックを行う。これが作業面の工夫である。

それでも、入力ミスは起こる。するとどうなるか。ミスした者が晒されるのだ。別室で30分かけて「始末書」を書かされる。掲示板に「こんなミスがありました」と名前とともに掲載される。これが精神面の「工夫」である。

始末書を書いている間、他者の入力ノルマが増えるので、非難の矛先がミスした者に向かう。かなりのストレスだ。辞めてしまう人も多い。「問題無い」。「代わりはいくらでもいる」。そんな職場だった。

精神面の「工夫」は絶対マネしてはいけないが、作業面の工夫は今でも役立つ。一人ではなく複数人で入力すること。ダブルチェック・トリプルチェックを行うこと。実行しやすいと思う。

古典的「原因」

「懐かしさ」を感じさせるほど古典的な原因で、頻発するトラブル。保険証との紐付け問題で、厚生労働大臣は以下のように述べている。

加藤厚労相は「(中略)こうしたことが起こらぬよう入力時に十分に配慮してもらうことを徹底させる」と対応策を述べた。 マイナ失策に15年前のトラウマ 個人情報、一元管理を|日本経済新聞

原因は古典的。対策は表面的。「入力時に配慮徹底」という言葉が、上述の「精神面の工夫」を想起させる。

本当の原因は仕様設計、いや、データ項目に「カナ」が必要であることすら想像しなかった「要件定義の甘さ」にあるのではないか。ミスの対策は、人に依存するのではなく、システムで防ぐべきではないのか。

マイナンバーで優先すべきは、スピードではなく正確性だ。急ぐ必要はない。一度、見直してみてはいかがだろうか。