そんな学者肌の新総裁に、頭を切り替えるチャンスが降って沸いてきたのです。バブルといってもいい株高は、政策転換する絶好のチャンスなのです。金融緩和の転換を望まない人たちも、「バブル潰し」ならば文句をいえまい。日銀にとって、このチャンスを生かさない手はない。

平時なら緩和政策を転換して株価が急落すると、政治的な圧力がありましょう。バブルの異常な高値からの下落は影響は大したことはない。バブルを放置し、破裂した時のほうが怖い。過去のバブル崩壊時はみなそうです。年金基金などは超低金利の環境下で、株式の運用比率を引き上げています。バブルの高値からの株価下落なら、納得するでしょう。

政府も少子化対策の財源確保(年3兆円半ば)に苦渋しています。防衛費のGDP比2%への引き上げ(年5兆円)でも、「増税は25年度以降する」との先送りを決める方向です。

日銀保有のETFの含み益は10数兆円でしょうから、バブルのうちに売却し、売却益を日銀を通じて国庫納付金の形で、財政支出に回せばいいのです。

株を中央銀行が直接買うような主要国はありません。日銀による異常な異次元緩和策を正常化する第一歩にすべきなのです。

金融調節のYCC(長短金利操作付き質的・量的金融緩和)も、長期金利(10年物国債)をコントロール(上限を0.5%に決めている)するような部分から外していくべきでしょう。消費者物価が3-4%まで上昇しています。日銀の物価目標2%を超えているのですから、あれこれ専門的な理屈をこねず、基準金利を引き上げて行くべきでしょう。

バブルめいた株高、ETF売却益による財政支援、物価3-4%上昇、欧米は金利高の見通しなど、植田日銀が方向転換する条件が整ってきたのです。「1年半は検証」などいう学者志向から転換する時です。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。