高所恐怖症の仕組みが発見されました。
中国の華東師範大学(ECNU)で行われたマウス研究により、脳内には高所で感じる恐怖の発生源となる脳回路と、高所の恐怖を抑制する脳回路の2つが存在することが示されました。
高所恐怖症は数千年前の古代文献にも記載されている非常にメジャーな恐怖症ですが、脳内でどんな仕組みが働いているかは謎に包まれていました。
また研究ではこの脳回路を破壊した場合に何がおこるかも調べられており、高所でぶらさがりを楽しむような「命知らず」なマウスや、逆に高所を極端に嫌う超高所恐怖症なマウスが作成されました。
研究内容の詳細は2023年5月30日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されました。
マウスがみせた高所での「人間臭い」行動
人間には恐怖を感じるさまざまな状況が存在します。
死・痛み・孤立といった生命を危機にさらす恐怖だけでなく、流血・注射針・閉所といった限定的なものも「恐怖症」の名で多くが知られています。
なかでも高所恐怖症は数千年前の古代文献にもその存在が記録されてる、非常にメジャーな恐怖症となっています。
しかし意外なことに「脳がどんな仕組みで高所を感知し恐怖を発生させているのか」といった基本的なメカニズムは解明されておらず、有効な対処法もわかっていません。
しかし研究者たちのふとした気付きによって、高所恐怖症の謎に迫る研究がはじまりました。
研究のキッカケとなったのは、マウスたちがみせた「人間臭い」行動でした。
マウスを使った実験ではしばしば、マウスたちを高い場所に置いて怖がらせ、意図的なストレス状態にすることがあります。
ストレスに強いマウスは怖がっていても少しずつ探索をはじめますが、ストレスに弱いマウスは縮こまり動かなくなってしまいます。
マウス実験ではこのマウスの特性を使って、脳のストレスを処理する仕組みやストレス耐性を高める薬の開発を行っています。
しかしある日、研究者たちがマウスを観察していると、妙な部分があることに気付きました。
高所につれていかれたマウスの多くが、おっかなびっくり淵まで行って下を確認した直後、そくささと淵から遠ざかるような「人間臭い」行動を見せたのです。

同様の行動パターンは人間にもみられます。
高い所に連れていかれた人間たちにはしばしば、ギリギリまで身を乗り出して高さを確認するような行動を行い、その後決まって安全な場所へと退避していきます。
同じような行動パターンが存在するということは、マウスと人間が高い場所を検知し恐怖を感じる際、脳内で似たメカニズムが働いている可能性があります。
そこで今回、華東師範大学の研究者たちはマウスを使って高所恐怖症の発生メカニズムを調べることにしました。