地球以外に生命はいるのか?
これは宇宙を研究する上で最大のテーマの1つであり、私たち人類がもっとも大きな関心を寄せる謎の1つです。
生命が存在するためには、大量の水が欠かせないことを私たちは知っており、この条件を備えた太陽系で最大の候補地となるのが木星衛星エウロパです。
エウロパの表面は氷で覆われていますが、その下には広大な海が隠されていると考えられており、生命が存在している可能性があるのです。
問題はこの海にどの程度酸素が含まれているかということです。
テキサス大学オースティン校が率いる研究チームは、最新の研究報告において、木星の月エウロパの氷に覆われた液体の海には地球と同等レベルの酸素が含まれている可能性を示しました。
これは太陽系外で生命の可能性を探る上でも重要な示唆となるでしょう。
研究の詳細は、2022年2月10日付けで科学雑誌『Geophysical Research Letters』に掲載されています。
目次
なぜ木星の衛星エウロパには海があるのか?
エウロパにも十分な酸素がある?
なぜ木星の衛星エウロパには海があるのか?

ある惑星に生命が存在する可能性を考える際、まず注目されるのがそこに水があるか? ということです。
水は生命の存在に欠かせない物質であり、大量の液体の水(つまりは海)が保たれない環境では、生命が誕生することは難しいだろうと考えられるからです。
そのためによく条件として重視されるのが、ハピダブルゾーン(居住可能領域)と呼ばれる太陽から比較的近い軌道の領域です。
この距離に惑星がない場合、十分な太陽光によるエネルギー(熱)が届かないため、惑星表面に液体の水は存在できず、また光合成のようなエネルギー獲得方法も制限されるからです。
火星はかつて海があったことが示されているため、地球外で生命の存在する場所として注目されています。
しかし、最近では太陽に近くなくても液体の水が存在できる可能性が示されています。
それが木星の月であるエウロパです。
エウロパに海があるという証拠は、1995年から2003年に木星を周回したNASAのガリレオ探査機からもたらされました。

木星には強力な磁場(放射線)がエウロパを通過した際、海水の巨大な海を通過したと考えなければ説明できないような変異の特徴を示したのです。
またもう一つの証拠は、エウロパの表面が非常に滑らかでクレーターなど隕石衝突の後がほとんどないことです。
地球の月を見ても分かる通り、たいていの衛星や惑星の表面はクレーターでボコボコになっています。
こうした痕跡がエウロパにないということは、エウロパ表面の氷の下には暖かく上昇する液体や氷の地質学的な活動があり、それが表面のクレーターを消し去っていると考えられるのです。
では、太陽から遠く離れたエウロパは表面が氷で覆われていながら、なぜ内部には液体の海を保っていられるのでしょうか?
その理由は、エウロパが周回する巨大な木星の重力にあります。
木星との潮汐力によってエウロパの内部は無限のサイクルで引き伸ばされたり解放されたりしています。
つまりは、ゴムボールを手の中でグニグニ揉んでいるような状態です。
これがエウロパ内部に十分な熱を生み出し、その地熱によってエウロパの氷殻と地殻の間で、液体の海を作り出していると考えられるのです。
エウロパにも十分な酸素がある?
潮汐力で生み出された熱と液体の海の流動は、エウロパの氷の表面に亀裂、尾根、などの特徴的な地形を作り出していると考えられています。
こうした地形はカオス地形と呼ばれていて、エウロパ表面の約4分の1を覆っています。

また地殻と海の境界で、熱による活動がある場合、生命の栄養素となるミネラルが溶け出している可能性も十分にあります。
生命に不可欠な化学成分として一般的な元素に、炭素、水素、窒素、酸素、りん、硫黄があります。
これらの元素はエウロパが形成されたときに存在していた可能性が高いと考えられ、また特に炭素はその後も小惑星や彗星によって運び込まれている可能性が高いでしょう。
問題なのは、もしこの環境で生命が誕生したとして、その生命はどうやってエネルギーを得ているのか? ということです。
太陽の光が十分に届かない環境のため、光合成が使えないとなると、生命がエネルギーを得る方法は化学反応になります。
この場合、重要となってくるのが酸素です。
酸素は非常に反応性の高い元素であり、生命が利用できるエネルギーを生み出す化学反応の代表候補です。
地球では藻類の活動が大量の酸素を生んだ可能性が指摘されています。
しかし、エウロパではそもそも酸素を生み出す光合成はできないという話でした。
では、エウロパに十分な酸素が生み出される可能性はあるのでしょうか?
実は木星は強力な放射線源であり、これはエウロパの希薄な大気中に含まれる水分子を分解して酸素と水素を生み出していると考えられます。

水素は軽いため浮き上がっていきますが、酸素は表面付近にとどまります。
この表面で生成された酸素が、なんらかの方法によって氷殻下の海に流れ込むことができれば、エウロパの内部海は微生物が生存するのに十分な環境となっている可能性があるのです。
ただ、エウロパの表面の氷は厚さが24km近くあると推定されています。果たしてこれを通過して酸素は地下海洋に届くのでしょうか?
ここからが今回の研究のメインです。
新たな研究は、エウロパのカオス地形が、地下の塩水へ酸素を送るプロセスを世界で初めて物理的に再現するコンピュータシミュレーションを構築し、エウロパの海の酸素濃度を予測したのです。