カーダラス博士は、「私たちが切実に必要としているのは、ソーシャルメディアのこれらの強力な形成効果をよりよく理解し、今日のソーシャルメディアの世界の荒れ狂う海をナビゲートするために、若者が強力な心理的免疫システムと批判的思考スキルを開発できるようにすることだ」と述べている。

話を山上容疑者の犯行動機に戻す。ソーシャルメディアの影響は21世紀を生きている全ての人に当てはまることで、山上容疑者だけの問題ではない。問題は山上容疑者の安倍元首相像がどうして射殺するまでヒートアップしたかだ。日本社会に蔓延していた反安倍メディアとそのインフルエンサー、ソーシャルメディアの影響は大きい。だからといって、同じデジタル感染下にある全ての人間が安倍氏暗殺へ行動を移すことはないだろう。

それでは、「なぜ、山上容疑者はヒートアップしたか」だ。新型コロナ感染の場合、重症化せずに軽症で回復する患者と、重症化しやすい患者がいる。その違いは、高齢者のほか、がんや糖尿病など基礎疾患がある場合、感染者は重症化しやすいといわれている。

山上容疑者には基礎疾患があったのだ。「恨み」だ。旧統一教会への「恨み」がデジタル感染した山上容疑者を重症化させたのではないか。

「憎しみは憎む側(本人)をも破壊するがん細胞のようなものだ」と語ったパレスチナ人の医師イゼルディン・アブエライシュ氏の言葉を思い出す。同医師は3人の娘さんをイスラエル軍の攻撃で失ったが、「憎悪は大きな病気だ。それは破壊的な病であり、憎む者の心を破壊し、燃えつくす」と述べ、イスラエルとパレスチナ人の和解のために努力している

山上容疑者は「恨み」を止揚できず、デジタル感染が重症化し、暗殺を実行する以外に他の選択肢が考えられなくなるほど追い込まれていったのではないか。一つ疑問は残る。山上容疑者の単独犯行か、共犯者がいたかだ。デジタル感染の場合、感染者は同じ問題を抱えているか、それを理解しているデジタル・コミュニテイーを模索する傾向がある。ひょっとしたら、決定的な影響を与えたインフルエンサーがいたかもしれない。なお、デジタル感染はShadow Pandemic(影のパンデミック)と呼ばれている。山上容疑者の場合、デジタル感染の重症化例というべきかもしれない。

Cecilie_Arcurs/iStock

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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