今年の7~8月、東京電力管内の予備率が3%ぎりぎりになる見通しで、政府は節電要請を出した。日本の発電設備は減り続けており、停電はこれから日常的になる。年配の人なら、停電になってロウソクで暮らした記憶があるだろう。あの昭和の時代に戻るのだ。

予備率3%は「東京大停電」のリスクをはらむ危険水位

予備率3%というのは昨年の3・22と同じで、確率の低い出来事が2つ重なると大停電が起こる状況である。たとえば異常な猛暑の日に大地震が起こって大きな火力発電所が複数停止すると、3・22と同じ状況になる。

あのとき供給力は実はマイナス5%だったが、東電は他社から電力を緊急に融通してもらったり、電圧を下げたりして乗り切った。そういうルール違反をしなかったら、2021年のテキサスのような大停電が起こっただろう。このときは死者が20人以上出て、送配電会社(ERCOT)の経営者は総退陣した。

ところが河野太郎氏ひきいる内閣府の再エネタスクフォースは、3・22について「電力は足りるので原発を再稼動する必要はない」という驚くべき提言を出し、電力業界の関係者から批判を浴びた。

「所有権分離」したら誰が供給責任を負うのか

さらに今年、再エネTFは、関電などの不祥事を理由に送配電会社の所有権分離を提言している。これは首都圏でいうと、東電ホールディングスが東電パワーグリッドを外部に売却し、まったく別会社にするということだ。それによって何が起こるだろうか。

資本分離すると、3・22のような事故が起こった場合、東電は供給責任を負わない。今は発電と送配電を法的分離しているが、資本関係はあるので、東電が事実上の供給責任を負っている。

しかしパワーグリッドを資本分離したら、送電網をもたない東電は電力需給を調整できない。調整するのはパワーグリッドだが、彼らは発電設備をもたない。特に問題なのは、再エネである。

再エネの電力は、予備率にカウントできない。たとえば太陽光発電の設備はいくらあっても、天候が悪かったらゼロになるからだ。彼らは供給責任を負わないので安い価格を出せるが、火力も原子力も固定費を回収できない。

再エネは固定価格買い取りで利潤を保証されているが、おかげで火力の稼働率は46%に落ち、古い火力は廃止され、設備投資は起こらない。それがいま起こっている過少投資である。