インプレス社は、北海道の根室半島沖に浮かぶユルリ島の取材を10年以上にわたって続ける岡田敦氏による書籍『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』を、6月7日(水)に発売した。

本書は、北海道出身の写真家である同氏によって記録されたユルリの豊かな自然と、そこに暮らす馬たちの物語を伝える書籍だ。

北海道の根室半島沖に浮かぶ馬たちの島

北海道本島の東端に位置し、オホーツク海と太平洋に面した根室半島。その昆布盛漁港から距離にして約2.6km、海面上に現れる円盤の形をした横に平べったい島がユルリ島だ。

島には、かつては昆布を採集する漁師の住居や番屋が存在したが、半世紀前、家畜の馬を残して最後の島民が島を離れた。その後、残された馬たちの近親交配の乱れをなくすために5年程度ごとに種馬が島に運ばれ、最盛期には30頭が暮らしていたという。

人がいなくなり、馬たちのユートピアとなったユルリ島。

しかし、漁師の高齢化などで種馬の供給が行われなくなり、ユルリの馬たちは絶えゆくことを運命づけられてしまった。その数は減り続け、今では高齢の雌馬が数頭だけ生き残っている。

そのユルリ島を2011年から撮り続けてきたのが、木村伊兵衛写真賞を受賞した写真家の岡田敦氏だ。固有の自然を守るため、上陸することが厳しく制限された島の情景は、小説『ロスト・ワールド』の世界を彷彿とさせる。

同氏が、ユルリ島とそこに暮らす馬たちの撮影を続けるのには理由がある。それは、約60年間にわたり続いてきた馬の命の繋がりが途絶えてしまうということを知り、記録しなければいけないと感じたからだという。

消えてゆくものたちを見つめ、何を守り、何を後世に伝えてゆくのか。書籍『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』は、岡田氏の美しい写真と文章によって、幻の島と呼ばれるユルリの歴史と今を鮮明に描き出す。

豊かで美しいユルリ島の自然と残された馬たちの物語

今は馬だけが暮らす無人島になっているユルリ島。

なぜ、島民は去り、馬だけが残されたのか。本書は、元島民や関係者へのインタビューをもとに、ユルリ島の歴史と馬をめぐる物語を紐解いてゆく。

岡田氏は、地元行政の協力を得ながら、厳しい上陸制限がかけられているユルリ島の写真を10年以上にわたり撮り続けてきた。本書には、島で生きる馬たちの姿を中心に、ユルリ島を取り巻く環境を交え、現在の島の風景など貴重な写真を多数収録した。

本書はその内容はもとより、装丁にも注目したい。

手がけたのは若手デザイナーの泉美菜子氏。布張りや箔押しなど、手に取った人がユルリ島の世界を感じられるよう、細部までこだわった装丁を施した。

ユルリの豊かな自然と残された馬たちの姿を捉えた『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』は、美しい島と馬たちの儚いストーリーを未来に語り継ぐ一冊だ。

エピタフ 幻の島、ユルリの光跡
著者:岡田 敦(写真・文)/星野智之(構成)
発売日:6月7日(水)
ページ数:240ページ
サイズ:四六判
定価:2,970円(税込)

(高野晃彰)