文章解析からみえてきた「予言者」の性格

「常に外れる予想」をする映画レビュワーの特徴
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

自分の評価と売り上げが正反対になってしまう人は、性格や人格に通常とは異なる何らかの要因が存在していると考えられます。

ただ多数にのぼる映画レビュワー1人1人の心理テストをするのは現実的ではありません。

そこで研究者たちは「失敗の前兆者」の特性を持つ映画レビューワーが書いたテキストに対して文章分析を実行し、他のレビュワーと文体や語法、性格特性に何らかの違いがあるかを調べてみました。

すると「失敗の前兆者」は普通のレビュワーに比べて、映画に対して分析的で形式的な書き方をしていたのに加え、「私」のような1人称の代名詞の使用頻度が低いことが判明します。

「分析的、形式的、1人称を使わない」で書かれる文章は個人の感想だという前提が隠されてしまい、絶対者や神の視点で語られがちになります。

そのような文章はしばしばレビューというより映画に対して審判を下す「判決」に近いものになり得ます。

また「失敗の前兆者」の一般大衆に対する態度を文面から分析したところ、大衆の意見を重要視せず、自分のレビュワーとしての能力に過度な自信を示す傾向がありました。

こう書くと、独りよがりかつ外れてばかりのレビューを書く「失敗の前兆者」は、あまり優秀なレビュワーではないように思えてきます。

しかし「失敗の前兆者」としての特性を持つレビュワーは、アマチュアから映画批評家の大家として知られるトップレビュワーまで広く存在していました。

豊富な知識と高い専門性、優れたセンスを持つ一流評論家の中にも「失敗の前兆者」がいるという事実は非常に興味深いと言えるでしょう。

またトップレビュワーかつ「失敗の前兆者」の特性を持つレビュワーの文章を解析したところ、高評価なレビューを書くときには他のレビュワーたちよりも、より多くの「副詞」が含まれているという特徴があることがわかりました。

※副詞は「ゆっくり」「はっきり」「とても」など、名詞以外の言葉や文章を修飾する言葉。

また低評価なレビューを書くときには、より一段と分析的にな文体になっていたことも判明します。

次のページでは、そんな「失敗の前兆者」が映画業界にもたらしてくれる、莫大な利益について解説したいと思います。

常に外れるレビューから利益を得る

「常に外れる予想」をする映画レビュワーがいると判明!使い方次第で金のなる木か?
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今回の研究では映画業界が「失敗の前兆者」を使って利益を生み出す4つの方法が提言されています。

1つ目は、「失敗の前兆者」が書くレビューを調べれば(不幸にも彼らに好評だった場合)、映画の売り上げが悪くなりそうなのかを早い段階で特定することが可能になります。

レビューの多くは映画館での一斉上映前の前評判として公開されるため、上映日にあわせて映画の宣伝を追加で行わないなどの結論を下す材料になります。

2つ目は主に映画を上映する映画館にとっての利益です。

「失敗の前兆者」の反応を調べて映画の売り上げが見込めないと判断した場合、映画館は上映スクリーンを減らすなど、リスクに備えることができます。

3つ目はさらに有望で、映画作成の開始段階から「失敗の前兆者」の意見を聞きつつ「脚本」「キャスティング」「制作チーム」などを、彼らから最も低評価を受けるもので構築する方法です。

「失敗の前兆者」が酷評する脚本・キャスティング・制作チームによって作られた映画は高確率で、売れる映画になる可能性があります。

そして4つ目はレビュー担当者を雇用する企業に対する利益です。

レビューを書かせる会社としては、映画の売り上げがレビュー評価と一致していると信頼を得ることができます。

そのため「失敗の前兆者」を利用することができれば、雇用する「普通の」レビュワーたちに、売れそうな映画に肯定的なレビュー、売れなさそうな映画に否定的なレビューを書かせることで市場の評価と一致した共感を得やすいレビューを増やすことが可能になります。

ただどの方法でも最重要となるのは「失敗の前兆者」には何も変わらないまま映画レビュワーとして働き続けてもらう必要がある、という点です。

万一、自分が逆張り預言者として使われていることが知られてしまえば「失敗の前兆者」はレビューの書き方を「普通」に変えてしまい、予言効果がなくなってしまうかもしれません。

予言を外す預言者は、本人には不名誉なことですが業界にとってはとても貴重な人材になるのかもしれません。

参考文献
Can movie reviews predict box office success?

元論文
What reviews foretell about opening weekend box office revenue: the harbinger of failure effect in the movie industry