効率よくクルマを動かすためのトルコン内部機構の工夫

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ステーターによる「トルクの増幅」
しかし、このキャッチボールをし始めたばかりの時は、受動的な動きのタービンライナーはオイルインペラーよりも速度が遅いため、軸に沿った直進的な流れになります。
そのため、戻ってきたオイルの流れはオイルインペラーの回転を手助けするほど強くありません。そこで登場するのが、ポンプインペラーとタービンライナーの間に挟まれているステーターというパーツです。
前述のように、ポンプインペラーから送られたオイルはタービンライナー回して、再びポンプインペラーへ戻ろうとします。この時、オイルの流れは軸沿いに直進する流れになっているのですが、これをステーターで整流して、ポンプインペラーの働きを助けるように外側に向かう流れにします。
この渦のような流れによってポンプインペラーの回転は容易になり、エンジンの力に加えてオイルの流れる力にもサポートとされることで、より強いオイルの圧力を生むのです。これが、いゆわる「トルクの増幅」です。
しかし、タービンライナーが回転速度を上げると、そのフィンの形状ゆえに自然とオイルに効率的な流れを作ろうとします。となると、今度はステーターの整流がかえって邪魔になってしまいます。
そこでワンウェイクラッチを取り付けることにより、ポンプインペラーとタービンライナーの回転速度がほぼ同じになった場合、ステーターがオイルの流れを妨げないように空転するようにしています。
ちなみに、ステーターによるトルクの増幅によって、アイドリングでもクルマを動かすことができます。これを「クリーピング」や「クリープ」と言います。一時期はクルマの誤発進を防ぐためにクリーピングを無くすクルマもありましたが、発進がしにくというユーザーの声から、再び見直されています。
伝達損失を少なくするトルクコンバーターカバーとロックアップクラッチ
さて、流体を利用するスターティングデバイスだからこそ衝撃のない発進を可能にしているわけですが、パワーを伝えるのが流体ということから伝達損失があり、100%の力を伝え切ることができません。そこで登場してくるのが、初めに紹介したトルクコンバーターカバーとロックアップクラッチです。
ロックアップクラッチは、MT車に付いているクラッチと同じような構造です。トルクコンバーターが一定の回転数に達すると、タービンライナーと同軸で繋がったクラッチが、ポンプインペラーと繋がっているトルクコンバーターカバーに押しつけられて締結します。
これによって、エンジンとトランスミッションは流体を通して接続されるのではなく、軸によって繋がることになるわけです。
ロックアップは燃費の低下防止やレスポンスの向上につながる機構で、クラッチ板をタービンライナーの背面に押しつけるタイプやトルクコンバーターの外にロックアップクラッチを設けるタイプもあります。
トルコンも定期的なオイルメンテナンスが必要

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トルクコンバーターの中に入っているオイルを「ATF(CVTの場合はCTVFで別)」「トルコンオイル」と言います。
オートマチックトランスミッションのオイルは循環して、トルクコンバーターに回ってきます。その際、トランスミッション内の潤滑・冷却・洗浄も行うので、当然ながら劣化します。
最近のクルマのATFは、10万kmまで交換しなくてもノートラブルという話もありますが、一般的には30,000〜50,000km、車検ごとに交換するのが望ましいと言えます。
ATFを長年交換していない場合、いきなり全量を変えてしまうと、AT内のスラッジが剥がれ落ちるなどが原因でメカトラブルになることがあります。交換する時は、販売店に相談しながら実施するといいでしょう。
今回はトルクコンバーターについてお話してきましたが、もはやクルマには欠かせない大切なメカニズム。昨今のクルマでは、各部の電子制御化によって、ロックアップクラッチの作動も細かく制御できるようになりました。
これにより、イルの伝導損失をさらに減らせ、キビキビとした快適なドライビングが可能になっています。非常にスタンダードな機構でも、周辺のメカの進化によって、トルコンも変わりつつあります。
文・MOBY編集部/提供元・MOBY
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