『ひるおび』『ノンストップ』…頑なにジャニーズ性加害を報じない情報番組の不可解さ
(画像=ジャニーズ事務所、『Business Journal』より引用)

 ジャニーズ事務所創業者で前社長のジャニー喜多川氏による少年たちへの性加害問題をめぐり、5月14日(日)夜に藤島ジュリー景子社長がおわび動画とコメントを公表してから1週間が経過した。21日(日)には所属タレント最年長の東山紀之さんがMCを務めるテレビ朝日の報道番組『サンデーLIVE!!』で初めてこの問題に言及。個人的な考えとしながらも「そもそもジャニーズという名前を存続させるべきなのかを含め、外部の方と共にすべてを新しくし、透明性を持って取り組んでいかなければならない」と改革への決意を表明した。

 日本の芸能界で長いことタブーだった巨大事務所の性加害問題は1週間あまりで大きく動いた。これまで芸能界と持ちつ持たれつで、「王国」とも評される強大な権力であるジャニーズ事務所の顔色を窺ってきたテレビ局や番組の対応が次第に明確になりつつある。

自分たちで被害者を取材する「調査報道志向」の番組

 まずは一連の報道で自ら調査報道を行い、事実を究明しようと「攻め」の姿勢を示す番組が出てきた。「積極的な調査報道派」の番組といえる。この問題では今年3月、英国のBBCが1999年以降の「週刊文春」(文藝春秋)の報道をたどって「元少年たち」に取材したドキュメンタリーを放送した。それ以降、テレビでは、ジャニー喜多川氏から性加害を受けたと告白した元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさん(26)[=15歳で性被害]の記者会見(4月12日)の映像などを使った断片的なニュース報道が見られるようになったものの、番組として自ら調査して本格的な報道に踏み切ったのは5月11日(木)のTBS『news23』が最初だった。

 同日放送の『news23』はこの問題を冒頭から2番目の項目で扱い、オカモトさんと元ジャニーズJr.の橋田康さん(37)[=13歳で性被害]のインタビューを番組独自に取材して放送した。番組ではジャニーズ事務所が「今週末に対応を発表する予定」であることを明かしたが、その予告どおりに5月14日夜、事務所は前述の動画とコメントを発表した。

 事務所側の発表を受けて、テレビや新聞が一斉にこの問題を報道する動きが生まれた。発表当夜の番組も当該動画を使って速報として報じる番組もあったが、本格的な報道は5月15日(月)朝から各局の報道・情報番組から始まった。この夜の『news23』はジュリー社長の動画に対するカウアンさんと橋田さんの反応を改めて取材して放送している。

 5月16日(火)には『news23』で証言した2人が立憲民主党に呼ばれて国会でのヒアリングに出席した。子どもたちを虐待から守るための児童虐待防止法は加害者として実の親などの肉親を想定し、芸能事務所の経営者などを想定していないため「法改正が必要」だと訴えた。もはや芸能界だけの問題ではなく、政治や行政も巻き込んだ国民全体のテーマへとなりつつある。

 5月17日(水)にはNHKを代表する調査報道番組『クローズアップ現代』(以下、『クロ現』)では、これまでテレビにはまったく登場していなかった新たな被害者として元ジャニーズJr.の二本樹顕理さん(39)[=13歳で性被害]の顔出し・実名のインタビューが放送された。二本樹さんによると今も心の傷が残っているという。当時のジャニー氏と同じような年齢の男性を見ると、突然フラッシュバックして嘔吐しそうになることがあるとトラウマを告白した。『クロ現』も『news23』も自ら被害者とコンタクトして証言を集め、事実として何があったのかを検証する姿勢で共通する。制作費の削減や経済効率を重視する傾向が続くなかで自ら調査報道を行う番組が減り、テレビ報道の足腰が弱っているという指摘がよく聞かれるようになった。そうしたなかで「調査報道」を志向する2つの番組は、報道機関の責任を果たそうとする最近では稀少な番組といえる。

『news23』の小川彩佳キャスター、『クロ現』の桑子真帆キャスターも、共に「伝えてこなかったメディアの責任」を反省する言葉を述べた。

・『news23』5月11日:小川彩佳キャスター 「取材に応じてくださったカウアンさんはジャニー氏の疑惑について、『当時からメディアが報じていたらジャニーズ事務所に行くことはなかった、とも話されていました。はたして報道機関がどれだけこうした被害を報じてきたのか。少なくとも私たちの番組はお伝えしてこなかったという現状があります」

・『クローズアップ現代』5月17日:桑子真帆キャスター 「3月、イギリスBBCが番組を発信した後、被害を訴える声が相次いでいます。なぜ、この問題を報じてこなかったのか。私たちの取材でもこうした声を複数いただきました。海外メディアによる報道がきっかけで波紋が広がっていること。私たちは重く受けとめています」

 さらに5月21日には日本テレビ『真相報道バンキシャ!』(以下、『バンキシャ』)の桝太一キャスターも「伝える側の責任」を示唆するコメントをした。

・日本テレビ『真相報道バンキシャ!』5月21日:桝太一キャスター 「まずは大前提として、今後、人の気持ち。プライバシーを本人が望まないかたちで、ないがしろにするようなことはあってはならないと、テレビをご覧のみなさんと私たちと一緒に確認しておければと思います。その上で社会に広く問いかけて発信するという手段を与えられているメディアの一員として私も二本樹さんのおっしゃっていた『一個人が声をあげても、どうにもならないんじゃないか』という言葉が、いったいどんな意味を持っているのか。どんな状況を示しているのか。真摯に受けとめたいと思っています。テレビというメディアが誰のために何のために発信していくのか。私たちはいま一度考えてまいります」

 この日の『バンキシャ』はどちらも13歳の頃にジャニー氏から被害にあったという元ジャニーズJr.の男性2人が顔出し・実名で登場した。すでに『news23』『クロ現』に登場した人たちだったが、性加害による心の傷が今も続いている現状を告白していた。以上より、5月23日の時点では「調査報道」志向の番組は以下のとおりだ。

【調査報道に積極的な番組】 TBS『news23』 NHK『クローズアップ現代』 日本テレビ『真相報道バンキシャ!』

ほどほどでいい?発表報道に徹する番組

 一方、自分たちで被害者の証言を取材しようとせず、あくまで事務所や元所属タレントが発表や記者会見などをした時だけ、その範囲内の映像素材だけを使って報じようとする姿勢の番組も少なくない。他の番組の様子を横目で見ながら、大勢の人の前で発表された映像素材を材料にして「発表報道」に徹する番組(以下、「発表報道」志向の番組と呼ぶ)といえる。「ほどほどでいい」という考えなのか、独自のインタビューは取材せず、解説を加える番組など内容には温度差がある。

【「発表報道」志向の番組と呼ぶ】 日本テレビ『ZIP!』『DayDay.』『ミヤネ屋』『news every.』『news zero』 テレビ朝日『グッド!モーニング』『羽鳥慎一モーニングショー』『スーパーJチャンネル』『報道ステーション』 TBS『THE TIME,』『Nスタ』 フジテレビ『めざましテレビ』『めざまし8』『イット』『FNN Live News α』『Mr.サンデー』

不自然なほど報道しない「超消極派」番組、背景は

 他方で、ほとんど報道しないという極端に消極的な番組がある。「できるだけ何もしない超消極派」の番組と表現できる。長時間の情報番組で、ふだん報道的なトピックを扱うことが多いのに、この問題については避け続けている。あるいは、番組内の「ニュースコーナー」(報道フロアから伝えるニュースの時間)でこの問題を扱うことはあっても、番組として特集したり、論点を整理したり、出演者がコメントしたりすることがない。この話題だけは意識的に避けている節がある。

 特にテレ朝の『大下容子ワイド!スクランブル』、TBSの『ひるおび』と『ゴゴスマ』はスタジオでゲストコメンテーターたちが報道的なテーマについていろいろ意見をぶつけ合う番組だ。これらの番組は新型コロナウイルスでも、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でも、旧統一教会の問題でも、連日にわたって最新情報を放送して議論してきた。それなのに、この問題だけは扱わない。非常に不自然だ。それぞれの番組が何を扱い、何を扱わないのか。何にニュースバリューを見いだすかは番組ごとの裁量に委ねられているとしても、報道や議論を番組のテーマにしているのに、わざわざ避けているのはなぜだろうか。

 同じことはTBSの安住紳一郎アナが司会を務める毎週土曜の『情報7daysニュースキャスター』にもいえる。同番組も不自然なほどこのテーマを扱っていない。安住アナは「TBSの顔」と呼ばれる人気アナでありながら、平日朝の『THE TIME,』でもまったくコメントしない。それはなぜなのか。芸能界に「帝国」として君臨したジャニーズ事務所に対する忖度や気遣いが、当の事務所側が認めた現在でも見え隠れする。

【不自然なほど避けている超消極番組】 テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』 TBS『ひるおび』『ゴゴスマ』『情報7daysニュースキャスター』 フジテレビ『ノンストップ』

 前述のとおり、『サンデーLIVE!!』内で東山紀之さんが決意を示した。今のところ他の番組でレギュラー出演するジャニーズ所属タレントで、態度を表明する人は出ていない。週刊誌報道などで実態が明らかになっても、これまで伝えてこなかったテレビや新聞。「メディアとしての責任」を痛感するキャスターや番組が現れる一方で、意図してなのか、この問題に触れようとしないキャスターや番組も複数あるテレビの現状がある。

 今回の問題は、テレビ番組やキャスターたちの見識を問うリトマス試験紙だ。それを無視するように報道しない番組の関係者は、テレビは報道機関だという意識が乏しい人たちだと断言してもいいだろう。東山さんの勇気ある発言で「超消極派」の番組や「発表報道」に撤する番組にも変化が見られることを期待したい。

(文=水島宏明/ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。

提供元・Business Journal

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