次に、新たな問題が出てくる。ウクライナ軍の攻勢を防ぐことができないとなれば、プーチン氏は大量破壊兵器の使用を決断するかもしれないのだ。プーチン氏にとってウクライナ戦争の敗北は絶対に容認できないからだ(「プーチン大統領と『ロシア国民』は別」2022年10月8日参考)。
欧米諸国は戦争がロシア本土まで拡大したならば、ロシア軍が核を使用する危険性が出てくることを恐れている。核兵器を使用しない代わり、ウクライナ国内の原発へ攻撃を加え、放射能を放出するなどの奇襲に乗り出す危険も予想される。
米ホワイトハウス報道官のカリーヌ・ジャンピエール氏は、「わが国はロシア国内への攻撃を支持しない」と強調、ウクライナ軍のロシア本土攻撃にははっきりと拒否姿勢を見せている。
プーチン大統領は30日、モスクワとモスクワ地域への無人機攻撃に関してのスベトラーナ・チュプシェワ戦略イニシアチブ長官の質問に答え、「ウクライナ国民は、ザポリージャ原子力発電所の運転を妨害したり、原子力技術に関連した汚い装置を使用したりする試みなど、他の脅威も存在することを理解する必要がある」と述べ、戦争が拡大すれば原発の安全が保障されないことを示唆している。
同時期、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は30日、ニューヨークの国連本部で開かれた安全保障理事会に出席し、ロシア軍の占領下にあるザポリージャ原発の安全保護のための「5原則」をロシアとウクライナに提案したばかりだ。原発が砲撃を受けて、大量の放射能が放出するというシナリオは現実味を帯びてきているのだ。
ウクライナ戦争は新しい段階に入ってきた。ドローン機によるモスクワ攻勢はその初めを告げる出来事だ。戦争の拡大を防ぎ、早急に停戦を実現する道を探しださなければ、取り返しのつかない状況が生じる。ウクライナに武器を供給してきた欧米諸国はゼレンスキー大統領に「戦いはロシア軍が占領した領土の奪還に留めるべきだ」と改めて説得すべきだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。