都会の暮らしは、光害や騒音、大気汚染といった様々なストレスに晒されやすいことは周知の事実です。

実際、都市部の生活者は農村部に比べて、うつ病のリスクが高くなることを示した研究も数多くあります。

しかし今回、米イェール大学(Yale University)、デンマーク・オーフス大学(Aarhus University)らの国際研究チームは、一部の郊外では都市部よりもうつ病になる可能性が高くなるという意外な事実を発見しました。

都会より静かで平和なはずの郊外が、どうしてメンタルヘルスに悪影響を及ぼすのでしょうか?

研究の詳細は、2023年5月24日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。

建物の環境はメンタルヘルスにどう影響するのか?

先行研究から、都市部は農村部に比べて高いうつ病リスクと関係していることは確かです。

しかし都市部といっても多様な居住環境があり、それらがうつ病リスクとどう関連しているかはあまり知られていません。

今回の研究で特に注目されたのが、建物の高さと密度です。

例えば、1ヘクタール(1万平方メートル)の区画に同じ人口を収容するにしても、低層ビルを密集させる方法と高層ビルをまばらに建てる方法があります。

都市部では、ビルが密集して建てられるビジネス街の他、緑地を配置した市街地に高層ビルがまばらに建てられる場合もあります。

一方で、都市部から少し離れた郊外では、低層の建物が中程度の密度で建てられる傾向が強いです。

研究チームは、こうした建物の環境の違いが人々のメンタルヘルスにどんな影響を与えるかを明らかにしようと考えました。

都会に住んでも「うつ病リスク」が高まらない?

本研究では、デンマークの都市部・郊外・農村部を対象に、機械学習ツールを使って過去30年間(1987年~2017年)の建物の衛星画像を調べました。

それらを建物の高さと密度によって以下の6つのカテゴリーに分類します。

おおよそ「高層・高密度」「高層・中密度」は都市部に、「高層・低密度」は都市部と郊外の両方に、「低層・高密度」「低層・中密度」は郊外に、「低層・低密度」は農村部に集中しています。

居住環境を「建物の高さと密度」で6つに分類
Credit: TZU-HSIN KAREN CHEN et al., Science Advances(2023)

そして各カテゴリーの住居に住む人々から得られた健康状態や社会経済的な地位、精神疾患の有無などと照らし合わせました。

その結果、意外にも都市部の居住環境だけがうつ病リスクを高めるという有意な関連性は見られませんでした。

これについて研究者は「高い建物や人口が密集した都心部では、ソーシャルネットワークや他者との交流の機会の多さがメンタルヘルスに利益をもたらしている可能性がある」と指摘しました。

それから自宅と職場が近く、移動時間が少ないことなども心身への負担を減らしていると考えられます。

さらに、都市部でも緑地公園や海岸線などのオープンスペースにアクセスしやすい「高層・低密度」の環境では、農村部(低層・低密度)と並んで、うつ病リスクが最も低くなっていたのです。

自然環境で過ごすことがメンタルヘルスに良い作用をもたらすのはよく知られています。

よって都市部に住むなら、自然環境にアクセスしやすい場所がベストでしょう。

デンマークの都市部オーフス・コペンハーゲン・オーデンセで調査
Credit: TZU-HSIN KAREN CHEN et al., Science Advances(2023)

一方で、うつ病リスクが最も高まっていたのは、一戸建てやアパート、マンションを含む「低層・中密度」の郊外でした。

一見すると、郊外は都会より閑静としていてメンタルヘルスには良さそうですが、なぜうつ病リスクを高めていたのでしょうか?