私立高校人気に押されていた、東京の都立高校が再注目されているという声が聞かれる。2001年から東京都教育委員会が、生徒の進学に対して組織的、計画的に対策を施している都立校を「進学指導重点校」などに指定するなど、都内では都立高校改革が進んでいるのだ。都は各学校の過去の実績や指導を基準に、「生徒一人一人の能力を最大限に伸ばす学校づくりの一環として、進学対策に組織的、計画的に取り組む」都立高校を3段階で分類している。

東大・京大など難関大学合格者数も一定…東京・都立高校、人気復調の理由と注意点
(画像=『Business Journal』より 引用)

まず、進学指導重点校(日比谷高校、西高校、国立高校、八王子東高校、戸山高校、青山高校、立川高校)。都教委によると、共通テストを5教科7科目で受験する生徒の割合が6割以上、難関国立大に合格可能な得点水準以上の受験者の割合が1割以上、および難関国公立大学(東京大学、一橋大学、東京工業大学、京都大学、国公立大学医学部医学科など)の合格者が15人に達していることを基準に選定されている。

次に進学指導特別推進校(小山台高校、駒場高校、新宿高校、町田高校、国分寺高校、国際高校、小松川高校)。進学指導重点校より対象となる大学が多く、難関国公立大に加え、それ以外の国公立大、早慶上智などの難関私立大学の合格実績をもとに指定される。

そして、進学指導推進校(三田高校、豊多摩高校、竹早高校、北園高校、墨田川高校、城東高校、武蔵野北高校、小金井北高校、江北高校、江戸川高校、日野台高校、調布北高校、多摩科学技術高校、上野高校、昭和高校)。こちらは進学指導特別推進校の選定基準に加え、さらにGMARCHR大学(学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学、東京理科大学)の合格実績が加わり、大学実績の幅を広く加味する分類となっている。以上の3分類に指定された都立高校は、なかには独自の学力検査問題を一般入試で実施している学校もあり、大学への進学実績もよいとのことだ。

では具体的に都立高校はどのように変わったのだろうか。株式会社エデュケーショナルネットワーク、R&Dセンターシニアアナリストである池田亨氏に最新の都立高校事情について聞いた。

都立人気は下がり気味だが、一部エリアだと都立校志向は高め

「一部の受験生や保護者から都立高校が再注目されているというのは事実でしょうが、都立高校への志望者数は緩やかに減少傾向にあります。2023年度の都立高校の入試に向けた進路希望調査では、公立中3生77,692名中、全日制都立高校希望は49,362名、63.5%でした。2000年代に入ってから60.7%を下回ったことがなく、2017年度は71.1%でしたから、以前よりも減っていることがわかります。

08年のリーマンショック時に志望者数自体は増加しましたが、経済的な事情で都立高校を志望した家庭が多かったので、都立高校人気によるものではありません。その後、10年より国による高等学校等就学支援金制度が始まり、さらに都による独自の上乗せで私立高校進学者への支援が手厚くなったことから、都立高校の志望者数は再び減り始めました」(池田氏)

加えて、東京ならではの事情により、都立高校の進学率が他の道府県よりも低いという。

「全国的には、公立高校に進学する生徒のほうが圧倒的に多いです。都市部をのぞくと、公立高校に受からなかったら、すべり止めとして受けていた私立高校に進学する、という考え方が主流です。東京も1960~70年代ぐらいまでは都立高校志向が現在よりも強かったのですが、現在は都内には私立の中高一貫校が多く、中学受験をしてそちらに進学する生徒が少なくありません。さらに近年は私立高校の評価が上がったこともあって、高校受験でも都立高校を選択肢に考えずに最初から私立高校を選ぶ生徒も増えたのだと考えられます」(同)

そんな私立進学が多い東京だが、一部のエリアによっては伝統的に都立志向が強いところもあるという。

「傾向として、23区外だと多摩地区の北部や西部、23区内だと東側の城東地区や、城北地区の東側などは全体的に都立高校人気が高いです。特に多摩地区は国公立難関大学合格実績を魅力にしている私立高校が23区ほどは多くないことで、国立高校、八王子東高校、立川高校といった進学指導重点校が目立つためだと推測できます。とはいえ武蔵野市、府中市、調布市、町田市などでは私立高校進学に対する意識がほかの地域と異なるという話も聞きますし、一概に多摩地域全体を都立高校志向が高い地域だとは言い切れません。年度によって違いはありますが、私立高校が多い東京のなかでは、都立高校志望の割合が比較的高い地域であるとはいえますね」(同)

進学指導重点校の入試は独自の検査問題

都立高校志望者数は減少傾向にあるそうだが、それでも人気のある都立高校は存在するようだ。

「国立高校や私立高校と併願して志望する生徒は多いものの、やはり第1希望として進学指導重点校、進学指導特別推進校といった大学進学に力を入れた都立高校を目指す生徒は少なくないですね。人気の高い都立高校の一般入試の応募倍率を見ると、2倍を超えている学校も目立ちます。ただし、応募倍率は出願した人数を表わしており、都立高校を、第一志望の国立・私立高校のおさえとして応募する生徒も多いことから、実倍率が高いとは言えませんのでご注意ください」(同)

ここで2023年度の実受験者と実合格者から算出した都立高校の実倍率を見てみたい。たとえば、人気の高い進学指導重点校の日比谷高校の最終応募倍率は男子が2.59倍、女子が1.96倍となっているが、実倍率を見てみると男子が1.72倍、女子が1.75倍という結果になっている。また、そのほかの実倍率を見ると、西高校は男子が1.46倍、女子が1.65倍、国立は男子が1.28倍、女子が1.34倍という数字に。先述したように都立高校は他校の併願生徒が多いという事情もあることから、池田氏の語るように都立高校の最終応募倍率を実質的な人気と断定することはできない。あくまで応募者数が多いということだけを理解しておくほうがよいだろう。

では進学指導重点校などの大学合格実績はどうなっているのか。

「進学指導重点校に関しては、難関国公立大現役合格15人を条件としています。ひとつの学校の1学年に320人ほど在籍しているので、少なくとも毎年5%ほどが難関国公立大に合格することが目標になっています。トップ校である日比谷高校、西高校、国立高校を中心に東大や京大といった難関大に進学する生徒の割合がもっと高く、コンスタントに高い合格実績を出していますね」(同)

進学指導重点校に次ぐ進学指導特別推進校や進学指導推進校も進学実績はよい。国公立大合格者に関しても、19~21年の現役生を見ると、進学指導特別推進校が平均74.3校、進学指導推進校が38校と結果を出しているといえる。

知識だけではなく、クリティカルシンキングが必要

進学指導重点校などの東京都教育委員会指定の都立高校のなかには、一般入試で独自の検査問題を採用しているところもあり、難度の高い出題も多いという。今後受験する生徒や保護者が対策すべきことや気を付けておくべきことは何か。

「すべての進学指導重点校、それから進学指導特別推進校の国分寺高校、新宿高校、進学指導推進校の墨田川高校の10校は、国数英の3科目で独自の検査問題を課しています。理科と社会は共通問題です。また、国際高校も英語だけ独自問題です。それ以外の都立高校でも、一部に別問題や学力検査を課さない、といった事例はありますが、多くの学校では共通問題を使用します。特にこの10校の国数英と国際の英語は個別の対策が必要となるので、志望校を検討する段階で、どこの学校を受験しようとするかはっきりさせたうえで勉強していきましょう。

また受験生に共通してアドバイスしたいことは、通っている中学校での定期テストや授業態度、提出物等で、音楽、美術、保健体育、技術・家庭の科目も手を抜かず、きちんと好成績を狙うこと。これらの科目は国数英社理に比べ、軽んじられがちですが、都立高校の一般入試では内申点が3割の比率、推薦入試では5割以内となっていて、中学校の定期テストなどによる内申点の配点も低くはありません。いくら受験本番で高い得点がとれても、中学校での内申点が低いと不合格になってしまうというケースもあります。なるべく高い内申点を獲得して、受験本番の足を引っ張らないようにするべきです。

そして都立高校入試全体の傾向ですが、近年では従来の学力検査ではあまり見られなかった、傾向が異なる出題も見られるようになっています。具体的には、知識だけを問うのではなく、自分の頭で考え、考察するタイプの設問が登場するようになってきました。2021年度から全面実施になった中学校の学習指導要領に基づいた出題です。そのため基礎となる1、2年生時の学習内容を早めの時期に固めておいてください。特に進学指導重点校では、受動的ではなく能動的に学ぶことが求められるため、入試段階からより自分で考え、論理立てて説明する力を要求されます。クリティカルシンキングの習慣を身に着け、それを使いこなせるかどうかがカギになってくるでしょう」(同)

――緩やかに減少傾向にあるとはいえ、トップクラスの都立高校の人気や進学実績は確かなもの。難関大学を目指す生徒は都立高校進学も選択肢として検討してもいいだろう。

(取材・文=文月/A4studio、協力=池田亨/教育アナリスト)

提供元・Business Journal

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