なお、ロシア安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は、ウクライナ西部地域を欧州連合(EU)加盟国に、東部地域をロシアに譲渡し、中央地域の住民はロシアへの加盟を投票で決めるといった和平案をテレグラムに掲載している。ウクライナの領土分断案だ。ロシア軍が占領しているウクライナ東部・南部の領土をロシア側として認めよ、という暴論だ。

李輝特別代表はモスクワ訪問前に、ウクライナ、ベルリンを訪問したが、ウクライナのクレバ外相は李輝特別代表に「ウクライナの領土一体性の重要性」を要求し、ドイツ政府からは「ウクライナからロシア軍を撤退させるようモスクワに圧力をかけるように」と求められている。

ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、領土分割の和平案について、「ウクライナ全土の解放を想定しない妥協のシナリオ」だと指摘。「民主主義の敗北、ロシアの勝利、プーチン政権の存続、国際政治での衝突急増を容認するのに等しい」と批判している。

ゼレンスキー大統領は、「ロシア軍が占領した領土を奪い返すまでロシアとは停戦交渉に応じない。また、(戦争犯罪の張本人の)プーチン大統領とは如何なる交渉にも応じる考えはない」とはっきり述べている。

ウクライナ側の「主権領土の堅持」とロシア側の「領土分割案」では和平交渉が成立することは難しい。ラブロフ外相は中国の和平への努力について、「ウクライナ危機に対する中国のバランスの取れた姿勢と、解決に積極的な役割を果たす意欲に対して感謝している」と述べたが、中国の調停を「バランスの取れた姿勢」と評価するのはロシアだけで、中国作成「ウクライナ和平12項目」はバランスの欠けたロシア支持の妥協案に過ぎないことを李輝特別代表は改めて明らかにしたわけだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。