スペイン内戦で後頭部を撃たれた患者Mは、数字や文字が普通に読めたが、脳はその2つの違いを理解できなかった。
1938年5月、当時25歳の患者Mはスペイン内戦の戦闘中に負傷。手術なしでどうにか回復、2週間後に意識を取り戻したが、彼は自分の視界が劇的に変化していることに気づいた。
兵士が見たのは、恐るべき「逆向きの世界」だった。物体は3重に見え、緑色に染まり、聴覚と触覚も反転していた。
音や触覚が頭の中で反対側に現れ、彼の身体を正反対の現実で混乱させた。その詳細は、学術誌「Neurologia」に掲載された。
Mの治療にあたったのは当時28歳の医師フスト・ゴンサロだった。ゴンサロ医師は、彼の頭を貫いた銃弾は左の頭頂・後頭部の大脳皮質の隆起を部分的に破壊していることを突き止めた。

ゴンザロ医師は、このユニークな症例が脳についての理解を深めることになると感じていたらしく、Mについての詳細な記録を残した。彼の死後、娘のイザベル・ゴンザロ(物理学者、マドリード・コンプルテンセ大学名誉教授)は、父親の記録を拾い集めた。
1945年と1950年に出版された著作の中で、患者Mが足場で逆さまになって働く男性を見たという記述がある。Mは数字や文字も普通に読むことができたが、数字と文字の違いを理解できないという不思議な状況にあったという。
神経心理学者のアルベルト・ガルシア・モリーナとイザベルは、『Neurologia』に寄稿し、Mが「驚くべきことに、日常生活を支障なく営んでいる」ことに言及した。
Mは最後まで身元が明らかにされることなく、1990年代後半に死亡した。

1930年代、科学者たちは、脳を全体としてとらえる派閥と、領域ごとに厳しい境界線を引く派閥とに分かれていたが、ゴンザロ医師は患者Mの研究から、中間的な仮説、つまり、器官が異なる勾配で働くという脳の力学の理論を提案した。
脳の損傷は、ある特定の機能を破壊するのではなく、臓器の機能のバランスに影響を与えるというわけだ。この考え方は、現在では広く定着している。
参考:「Daily Star」ほか
文=S・マスカラス(TOCANA編集部)
提供元・TOCANA
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