大新聞から個新聞への転換

人と会話しているような文書を生成する対話型AI(人工知能)サービス「チャットGPT」などに対して、議論が沸騰しています。なかでも紙の新聞に頼っている新聞界の危機感にはただならぬものがあります。

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生成AIの技術を駆使すれば、個人の志向、嗜好に合わせた新聞を個人ごとに編集することさえできるようになるに違いない。「大新聞」ではなく、「個新聞」です。読者の傾向が分かる「個新聞」なら広告もとれる。

記者の手作業を減らし、AIを駆使するデータジャーナリズムを重視する。人材を他業界からも集め、大変革期を迎えた新聞作りに向け、組織改革し、予算、人材を重点的に投入する。失敗すれば、新聞社の序列も一気に変わるでしょう。

新聞各紙の中で、大々的にキャンペーンを張っているのが最大手の読売新聞です。「衝撃、生成AI」と題する連載は「犯罪に悪用。質問次第で爆発物の作り方や詐欺メール」(上)、「著作権の保護が曖昧、アーチストは絶望」(中)、「前のめりで規制は後まわし、利用範囲の議論を欠く」(下)と、これでもかこれでもかと、生成AIの負の部分を叩いています。

デジタル化と憲法の関係に詳しい山本龍彦・慶大教授のインタビュー記事を1面肩に大きく載せ、裏の2面まで使っています。「国会活用に憲法上の問題も」「人間の認知をゆがめる恐れ」とのタイトルです。

記事を読んでみますと、「チャットGTPを活用するにしても、国会で審議を十分に行うことが重要で、おろそかにすると、AIが立法権を握ることになりかねない」、「どこまでAIが判断し、どこまで人間が考えたのか境界が曖昧になってくる」、「AIに判断を委ねることは、いわば『神の言葉に従う』というようなもので、中世の時代に引き戻されてしまう」など。

そこまでいうのかという過激な反AI論です。担当記者の一存でインタビューをし、記事化したのではないでしょう。読売はデジタル教科書の導入に対しても、度肝を抜くような猛反対のキャンペーンを繰り返しました。新聞社の最高トップの意向が働いているのでしょう。