無数の摩天楼がそびえ立つ米国最大の都市・ニューヨーク。
世界の中心として、政治・金融・文化・ファッションなど多方面に影響を与え続けています。
しかしニューヨークは今、自らの上に乱立する巨大なビル群によって崩壊の道を進んでいるのかもしれません。
米ロードアイランド大学(URI)とアメリカ地質調査所(USGS)の研究チームはこのほど、建造物の重量によりニューヨークが地盤沈下を起こしている証拠を発見しました。
ニューヨークは海に面する沿岸部にあるため、地盤沈下の進行にともない洪水リスクの増大が懸念されます。
研究の詳細は、2023年5月8日付で科学雑誌『Earth’s Future』に掲載されました。
ニューヨークの建物の総重量を算出
専門家は以前から、世界の沿岸部に位置する多くの都市が「地盤沈下」によって徐々に沈み始めていることを知っていました。
地盤沈下とは、地下の柔らかい堆積物の移動や地盤にかかる荷重、地下水の喪失によって地面が沈み込む現象を指します。
ニューヨーク自体、何年も前から沈下が始まっていることが指摘されていました。
特に沿岸部は気候変動による海面上昇の影響をもろに受けるため、沈下を食い止めることは喫緊の課題です。
そんな中、研究チームはニューヨークの地盤沈下について「建物の重さ」を考慮した推計がほとんどないことに注目しました。
そこで本研究では、ニューヨークに乱立する建物の総重量を計算し、地盤沈下に寄与しているかどうか調べることにしたのです。

チームがニューヨークにある100万棟以上の建物の累積質量を計算した結果、合計で約7640億キログラムと算出されました。
なお、この試算は建物とその内容物の質量のみで、道路・歩道・橋・鉄道など、舗装された部分の質量は含まれていません。
しかし今回の調査では、ニューヨークの地下に砂、シルト、粘土質の堆積物や岩盤などの複雑な地質があることを考慮し、これまでの地盤沈下の観測結果を改良しています。
チームは次に、ニューヨークを100×100メートルの正方形で網目状に分割し、重力を加味して建物の質量を下降圧力に換算しました。
各エリアごとの地質データと建物の下降圧力、および地表の高さを測定できる衛星データを比較して、ニューヨーク全体の地盤沈下率の推定値を算出。
その結果、ニューヨークは建物の重みで、年間に平均1〜2ミリの割合で地盤沈下していることが判明したのです。

これはあくまでニューヨーク全体の平均値であり、エリアによってはもっと速いスピードで沈下している場所もあります。
特に、粘土質の多い土壌や人工的な盛り土は、弾力性のある土壌に比べて沈下しやすいことが示されました。
また地下水の排水や汲み上げを含む都市化の進展が、地盤沈下に拍車をかける可能性があるとのことです。
危険なのはニューヨークだけじゃない
この結果は、800万人以上が暮らすニューヨークの災害防止策について再考を促すものです。
ニューヨークはすでに、洪水に対して脆弱な都市ランキングで3位にランクしています。
特に低地や沿岸部のエリアにおいて洪水リスクの増加が懸念されますが、その対策として巨大な防波堤を建設することはもはや最良の手段ではないかもしれません。
USGSの地質学者であるトム・パーソンズ(Tom Parsons)氏は「低地や沿岸部に面した場所に高層ビルを建設するたびに、将来の洪水リスクが高まることを認識するべきでしょう」と述べています。
また地盤沈下が問題視されているのはニューヨークだけではありません。
2022年に行われた世界の99の沿岸都市を対象とした調査では、海面上昇に比べ、地盤沈下が過小評価されていることが分かっています。
さらに調査対象となったほとんどの都市では、海面上昇よりも地盤沈下のスピードの方が速いことも示されました。

中でもインドネシアの首都ジャカルタは2000年以降に最大2メートル以上の地盤沈下が発生しており、2050年までに4分の1が水没するとの予測もあります。
その主な原因は地下水の過剰な汲み上げとされていますが、ジャカルタは高層ビルが多いことでも知られており、それが地盤沈下を悪化させている可能性もあるでしょう。
こうした話を聞くと、日本の東京も高層ビルの多い世界都市の一つのため不安に感じてしまいます。
これについては、環境省の報告を見ると、現在差し迫った地盤沈下の報告はないようです。そのため、むやみに怯える必要はないでしょう。
ただ、昨今は想定を超える豪雨の報告が増えているため、わずかな地盤沈下でも大きな影響が出る可能性もあります。
こうした調査や研究は、今後着目されるべき分野かもしれません。
参考文献
New York City Could Be Sinking Under The Weight of Its Skyscrapers
New York City building weight contributing to subsidence drop of 1–2 millimeters per year
東京都 関東平野南部 地盤環境情報 令和3年度
元論文
The Weight of New York City: Possible Contributions to Subsidence From Anthropogenic Sources