否認しないで相談することが必要
尾本容疑者は、借金が数百万円にまでふくれ上がった時点で妻や両親、さらには専門家などに相談することはできなかったのだろうか。そうしていれば、今回の悲劇を防げたかもしれない。
たとえば、40代の会社員の男性は、異動をきっかけに不安が強まったと訴えて私の外来を受診し、10年以上通院しており、結婚して子どもにも恵まれた。穏やかで優しい男性なのだが、最近になって診察の際、
「実は、ストレス発散のためにギャンブルにはまって借金が800万円くらいにまでふくらみ、取り立てが会社にまできそうになったので、妻に打ち明けた。妻は怒ったが、『支える』と言ってくれたし、両親にも話したら、心配してくれている。弁護士にも相談して債務整理をすることになった。そのための診断書が必要」
と打ち明けた。
私は、10年以上診察していながら彼が秘めていた“裏の顔”を見抜けなかったことで、おのが不明を恥じたが、「神様でも魔法使いでもないんだから」と自分で自分を慰め、診断書を書き、ギャンブル依存症の専門外来がある某病院に紹介した。
先日、来院した彼は、ギャンブル依存症の専門外来で診察を受け、プログラムに参加することになったと伝えてくれた。不安障害のほうは私の外来への通院を続けたいとのことだったので、今後も主治医として彼を支えるつもりである。
この男性は、家族と主治医に打ち明けることができたから、ギャンブル依存症の治療に取り組むことができるようになった。ギャンブル依存症は病気なので、きちんと治療しないと治らない。だから、自分は病気なのだという自覚、つまり「病識」を持って専門家に相談することが必要だ。
一番悪いのは、「こんなものは、やめようと思えばいつでもやめられる」と豪語し、自分がギャンブル依存症だということを否認し続ける姿勢である。その結果、身の破滅が待ち構えていることも少なくない。だから、まず否認をやめて、家族、さらには医師や弁護士などの専門家に相談することをお勧めする。
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
片田珠美『やめたくてもやめられない人-ちょっとずつ依存の時代』 PHP文庫、2016年
提供元・Business Journal
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