2016年度に亡くなった約131万人のうち、相続税の対象となった人は10.6万人、課税割合は8.1%だった。約12.3人に1人が相続税の問題に直面したことになる。

しかし、家庭裁判所で16年に提起された新規遺産分割訴訟の件数は1万 4662 件もある。相続の際に相続人間での話し合いで調整がつかず裁判に至ることも珍しくない。

このような相続の問題を避けるための手段の一つとして、生前贈与を検討することは意義があるだろう。

相続を考えるとき大きな問題となるのが不動産だ。不動産は土地や家屋など資産価値が高い上に分割相続が面倒な資産だ。相続税の改正により15年1月1日から課税対象が広がっている。改正前は相続税の課税対象でなくても新しく相続税の納税対象となる人が増えた。

このような状況では、不動産を生前贈与する際のメリットとデメリットを知ることは相続税を軽減する一助となる。

不動産相続時にかかる税金

相続税は課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いたものにかかり、これが基礎控除額を超えなければ相続税を納める必要はない。

基礎控除額は3000万円に法定相続人の数に600万円を乗じた額を加えた金額。例えば法定相続人の数が2人なら基礎控除額は4200万円。基礎控除後の課税価格に相続税の税率をかけたものが相続税となるが、下に示す通り相続税は累進課税で課税遺産総額が増えれば増えるほど納税額も増える。

【相続税率】
基礎控除後の課税価格/税率/控除額
1000万円以下/10%/‐
3000万円以下/15%/50万円
5000万円以下/20%/200万円
1億円以下/30%/700万円
2億円以下/40%/1700万円
3億円以下/45%/2700万円
6億円以下/50%/4200万円
6億円超    /55%/7200万円

不動産に特有な税金として不動産取得税と登録免許税がある。相続の場合、不動産取得税は課税されないが、登録免許税は不動産評価額の0.4%が課税される。

課税価格が基礎控除額の範囲内であればあまり問題はないが、課税価格が大きくなると税率も高くなり負担が大きくなる。どうやって課税価格を少なくするかが節税のカギとなる。

不動産の生前贈与にかかる税金

不動産を生前贈与するには贈与税がかかる。贈与税には相続時精算課税と暦年課税の2種類がある。

相続時精算課税は1年間の贈与額から特別控除額2500万円を超える額に贈与税が課税される。暦年課税は1年間の贈与額から基礎控除の110万円を超える額に贈与税が課税される。

相続時精算課税は、生前贈与を行いその清算は相続時に行う方法だ。相続時精算課税では相続税の計算時に生前贈与時の価格を加算して行い、生前贈与時には特別控除額2500万円を超える額については額に関係なく20%の贈与税がかかる。

なお相続時精算課税を選択できるのは60歳以上の父母・祖父母から20歳以上の子・孫に財産を贈与した時で、申告書を提出しなければならないという条件がある。また相続時精算課税制度を選択するとその後に暦年課税へ変更できない制限もある。暦年課税の基礎控除を使って贈与を行うことを考えている場合には注意が必要だ。

暦年課税は現金贈与を生前贈与する際に使う一般的な贈与方法だ。暦年課税の基礎控除の110万円を超える額について贈与税が適用されるが、税率は一般贈与財産(一般税率)と特例贈与財産(特例税率)の2種類がある。一般税率は兄弟間・夫婦間・親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用し、特例税率は祖父母・父母などから20歳以上の子・孫などへの贈与に使用する。下表に一般税率と特例税率を示す。

【一般税率】
基礎控除後の課税価格/税率/控除額
200万円以下/10%/‐
300万円以下/15%/10万円
400万円以下/20%/25万円
600万円以下/30%/65万円
1000万円以下/40%/125万円
1500万円以下/45%/175万円
3000万円以下/50%/250万円
3000万円超/55%/400万円

【特例税率】
基礎控除後の課税価格/税率/控除額
200万円以下/10%/‐
400万円以下/15%/10万円
600万円以下/20%/30万円
1000万円以下/30%/90万円
1500万円以下/40%/190万円
3000万円以下/45%/265万円
4500万円以下/50%/415万円
4500万円超/55%/640万円

これらの贈与税に加え不動産を生前贈与する際には、不動産取得税と登録免許税がかかる。不動産取得税の標準税率は4%だが、特例により2018年3月31日までは土地及び住宅は3%の軽減税率が適用され、登録録免許税は不動産評価額の2%が課税される。

不動産の生前贈与の5つのメリット

まず被相続人が自分の意志で不動産を生前贈与することで、被相続人が死亡した時の相続争いを避けられるというメリットがある。

第二のメリットとして、不動産の生前贈与では、相続時精算課税を利用することで贈与税を大幅に節約できる可能性が考えられる。

相続時精算課税の特別控除額2500万円までであれば贈与税を納める必要がないが、暦年課税であれば基礎控除の110万円を超える額について累進課税の贈与税がかかる。例えば基礎控除後の課税価格が1000万円であれば相続時精算課税では贈与税がかからないが、暦年課税では特例税率で30%の贈与税がかかり300万円も課税されてしまう。不動産取得税と登録免許税は贈与税の税率が適用されるが、相続時精算課税は有効な節税方法である。

次に、賃貸収益がある不動産を生前贈与すると、不動産の贈与完了後は不動産収益も贈与者から被贈者に移り、不動産収益分を相続の課税価格から外すことができる。これにより将来の相続税の課税価格を減るため、賃貸収益のある不動産の生前贈与は非常に有効な節税手段となる。

4つ目のメリットとして、贈与税の配偶者控除を利用して将来の課税額を少なくできることが挙げられる。結婚してから20年以上経過する夫婦間では贈与税の基礎控除110万円とは別に2000万円の配偶者控除が利用でき、2110万円までは贈与税がかからない。相続は夫から妻へ、そして子供へ相続する形が多く、この場合は2重に相続をすることとなる。配偶者控除は、この2重にかかる相続税をあらかじめ減らしておくことができ、節税できる制度だ。

最後に、不動産自体の生前贈与ではないが、賃貸収益がある不動産からの収入は生前贈与しておけば相続時の課税価格を抑えられる。

相続資産額が高額な場合、相続税の基礎控除額を超える額は相続税が課税されるが、相続税は相続資産が6億円超であれば相続税率は55%にもなる累進課税だ。生前贈与により相続時の課税価格を下げれば相続税を抑えられる。例えば暦年課税の基礎控除110万円を10年間生前贈与すれば1100万円分課税価格を下げることになり、相続税を低減できる。

不動産の生前贈与の3つのデメリット

一方でデメリットもある、まず相続人の間で相続争いの心配がなく、課税価格が相続税の基礎控除額以下の場合、不動産を生前贈与により相続時は不要の不動産取得税がかかってしまう。登録免許税も相続の場合に比べて高くなる。このような場合、不動産を生前贈与するよりも相続したほうが少ない納税額で済むわけで、生前贈与は得策とはいえなくなる。

また、暦年課税で相続人が相続時より3年以内に生前贈与を受けていた場合、この贈与については相続税の対象として扱われる。

暦年課税の基礎控除を利用して生前贈与を行っても3年以内の分は相続税の対象となるが、相続開始時点を事前に知ることはできないため、計画通りに生前贈与で課税価格を減らせない。なお、暦年課税で基礎控除を超えて贈与し贈与税を納めた場合、贈与税額控除により支払った贈与税は相続税から差し引かれるので2重に課税されることはない。

最後に、不動産の生前贈与を相続時精算課税で行う際には、前に説明した通り相続時よりも割高の不動産取得税と登録免許税を支払う必要があることに加え、不動産登記を行うことが必要となる。この不動産登記は自分でできないことはないが、専門知識が必要なためを司法書士などに依頼するのが一般的で、その費用も見込んでおかねばならないことはデメリットの一つだ。

不動産価格の変動は不確定要素

相続時精算課税制度で不動産を生前贈与する場合、相続発生時に生前贈与時の額で清算されるがこの時に不動産評価額が上がっているか下がっているかによって、得失が生じる。

生前贈与時よりも相続時の不動産価格が上がっていれば生前贈与時の安い不動産価格で評価され有利になるが、相続時の不動産評価額が下がっていれば生前贈与時の高いで額で清算され不利となる。これは相続税の基礎控除範囲内の額で相続税はかからずさほど問題になることはないが、それを超えると税額にかなりの差が生じる可能性がある。

例えば生前贈与時に不動産評価額が5000万円であり相続時に7000万円になっていた場合、相続税は7000万円ではなく5000万円で計算されるため相続税は安く済む。反対に相続時に不動産価格が3000万円に下落していた場合は、相続税は3000万円ではなく5000万円で計算されるため、相続税を余計に払わなければならなくなる。

このように不動産の相続時精算課税制度は、不動産価格が上昇する際には得をするが不動産価格が下落する場合には損をする可能性がある。

しかし、相続がいつ発生するか、またその時の不動産価格が上昇しているのか下落しているのかを事前に予測することはできない。相続税の基礎控除額を超える不動産の生前贈与について、この点に注意が必要だ。

不動産の生前贈与の注意点

不動産については、単純に相続税と贈与税の比較をすれば納税額を抑えられるわけではなく、不動産相続の特例など関係する法律も含めて損得勘定をすることが必要だ。不動産の生前贈与は相続時のトラブルを避ける効果があり、相続税の節税もできる有効な手段だ。不動産の生前贈与を検討することは有意義といえるのではないだろうか。

文・MONEY TIMES 編集部

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