加速する事業ポートフォリオの入れ替え
今後、アステラスはより多くの新薬候補群=パイプラインを獲得しなければならない。それはスペシャリティーファーマとして世界市場で成長を目指す同社にとって、最も重要なリスク分散になるだろう。
2023年度の主要製品別売り上げ予想に関してアステラスは、イクスタンジが6,699億円、「パドセブ(尿路上皮がん治療剤)」は667億円、「ゾスパタ(急性骨髄性白血病治療剤)」は493億円を見込む。短期的にイクスタンジに依存した収益構造は続く。その状況から脱するために、アステラスは事業ポートフォリオの入れ替えを加速させるだろう。経営戦略の教科書に出てくるプロダクト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)をイメージして考えると、イクスタンジは潤沢なキャッシュフローを生み出す「金のなる木」に位置づけられる。イクスタンジなどが生み出す資金を用いて、アステラスは海外での買収戦略を強化し、成長率とシェアが高い製品を増やさなければならない。製薬メーカーや新薬に関する有望な研究開発を行う企業を丸ごと買収することに加え、メガファーマが持つ事業の一部などを対象とするカーブアウト型の買収も増えるだろう。
重要となるのは、徹底したリスク管理だ。近年、世界の製薬業界では買収価額がせりあがってきた。例えば、2023年3月、米ファイザーはバイオ企業のシージェンを約430億ドル(約5兆7000億円)で買収すると発表した。中長期的に高い治療効果が期待される新薬開発技術を持つ企業は、創業後間もない段階であってもかなりの高い値が付く。アステラスは減損リスクに対応できるよう財務体力を高めつつ、メガファーマを中心に熾烈化する買収競争にしっかりと対応しなければならない。このように考えると、海外での買収の増加に伴い、アステラスが既存事業の収益性、成長性をより厳密に評価し、事業の売却などリストラ策を強化する公算は大きい。アイベリック・バイオの買収は同社経営陣がこれまで以上に高い成長にこだわり、事業ポートフォリオの入れ替えを加速させようとし始めた嚆矢といえる。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)
真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
提供元・Business Journal
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