ちょっと旧聞に属することなので、紹介するのがためらわれるが記しておく。ニュースソースはロイターである。4月21日フランス警察は欧州連合(EU)の反トラスト法(独占禁止法)調査当局に協力していることを明らかにした。欧州委員会は4月18日にEU独禁法調査当局が複数のEU加盟国でファッション企業を家宅捜索したと発表していた。しかしその企業名は明らかにされていない。さらにロイターは4月19日に、EU当局がこの捜査の一環でミラノにある「グッチ(GUCCI)」の施設を調べていると報道。「グッチ」の親会社であるケリングは同日、家宅捜索を受けていたことを認めている。
ということは、EU独禁法調査当局がフランス警察の協力を得て、4月18日に家宅捜索を行ったのは、LVMH以外にはあり得ないと断言してもいいだろう。
読者は、「ファッションの世界で独禁法なんて持ち出すなんてナンセンス。ファッションというのは、消費者が自らの個性に合わせて様々なブランドの中から購入を決定するわけで、そこに存在するのは多様性ではないか。マイクロソフトやアップルとは違うだろう」と言うかもしれない。
しかし、昨今のLVMH、ケリング、リシュモンなどのラグジュアリーブランドのコングロマリット企業の膨張ぶりを見ていると、「消費者の個性に合わせた多様なブランドの選択」ということがほとんど空想の世界に過ぎないのではないかと思われてくる。
2022年12月期(2023年1月26日発表)におけるLVMHの売上高は791億8400万ユーロ(前年比+23.3%。発表当時の1ユーロ=140円換算で約11兆880億円)である。さらに2月15日に発表になったケリングの2022年12月決算の売上高は203億5100万ユーロ(前年比+15%。発表当時の1ユーロ=140円換算で約2兆8491億4000万円)である。3兆円クラスのケリングはともかく、LVMHの11兆円というのは、ラグジュアリーブランド市場の「独禁法」に引っかかりそうなレベルではないのか。
コンサルティング会社のベイン&カンパニーが昨年秋に発表した「世界高級品市場レポート」によれば、世界高級品市場は2022年に前年比+21%成長し、1兆4000億ユーロ(約196兆円。1ユーロ=140円換算)に到達するという。個人向けの高級品市場は同+22%成長し、3530億ユーロ(49兆4200億円。1ユーロ=140円換算)に達するという。当然LVMH、ケリングが対象にしているのは個人向け高級品市場である。ざっくり言って、50兆円のうちの11兆円というのは占有率22%。微妙な水準ではある。
何をもって高級品と呼ぶのかという定義の問題もあると思うが、ベイン&カンパニーが捉えている高級品という概念より、LVMHが手がけているラグジュアリーブランドという概念はより「高級」だとは思う。また、高級品市場の増加スピードよりもLVMHの増加スピードは上回りそうだし、EU独禁法調査当局がボチボチ問題視し始めているというのは肯けるのだ。
簡単に言って、ブランドの「優勝劣敗」が着々と進んで、勝者は想像以上に大きくなり、敗者はマーケットから消えていくという流れが早まっていると感じるのは私だけではないだろう。「個人の嗜好がますます多様化し多ブランド時代が早晩やって来るだろう」などと脳天気なことを私は1990年頃に書いた記憶があるが、少なくとも現在、時代はこの予想に逆行している。
文・三浦彰/提供元・SEVENTIE TWO
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