スパイ映画や戦争ドラマなどのフィクションの世界では、時折「自白剤」が登場します。
これまで無言を貫いていた捕虜が、自白剤を投与された途端、意識が朦朧とし心がさまよった状態でつらつらと秘密の情報をを吐いてしまうのです。
実は現実にも「自白剤」というものが存在しており、これまで世界中で使用されてきました。
では、現実の自白剤はどのようなメカニズムで作用するのでしょうか?
誰にも言えない秘密を抱えている人が、現実の自白剤に怯える必要はあるのでしょうか?
ここでは自白剤として使用されてきたいくつかの薬とその効果、そして過去に行われた自白剤の実験を紹介します。
「映画に登場するような自白剤」は存在しない
多くの人が知っている通り、現実にも「自白剤」は存在します。
しかし、私たちがフィクションで見てきたような「嘘をつけない」「尋ねられたことをつらつらとしゃべってしまう」などの、はっきりとした効果が得られる便利な薬ではありません。
では、現実の自白剤とはどのようなものなのでしょうか?
人類はローマ帝国が存在した時代から、何らかの薬物の影響を受けている人が「真実を語りやすい」ことを知っていました。

そして第一次世界大戦のころから自白剤の開発が盛んになったと言われています。
ただしこれら自白剤には、「脳や体の機能を一部麻痺させる」以上の働きはありません。
しかし自白剤を投与されると、「まっすぐに歩く」ことが難しくなったり、「嘘をつく」などの集中力を必要とする思考が難しくなるのです。
同様のことは、強烈な睡魔に襲われた時にも生じます。
起きているのか寝ているのか分からない状態では、真実を話すよりも嘘をつく方が難しいでしょう。
また気分がハイになる薬物であれば、「自制がきかなくなり、調子に乗って色々話してしまう」なんてこともあるでしょう。
これらのような意味で、いくつかの自白剤には「真実を語らせる」効果があると言えます。
では、実際にどのような薬物が用いられてきたのでしょうか。
現実で使用された有名な「自白剤」

自白剤として特に有名なのは、「チオペンタール」と呼ばれる麻酔薬です。
体が脳に情報を伝達するプロセスを遅らせる中枢神経系の抑制剤として働きます。
静脈注射により、鎮静・催眠・筋弛緩・血圧低下などの効果を示します。
使用者はチオペンタールを服用してから30~45秒で気絶するため、日本では全身麻酔の導入などに広く使用されています。
アメリカでは死刑執行時に意識を無くす薬として知られていますが、現在ではメーカーの製造停止により入手が困難になっています。
そして2007年にはチオペンタールを自白剤として使用したとの報告があります。
インドのニューデリー警察が、子供たちを誘拐し殺害する「ノイダ連続殺人事件」の容疑者たちにチオペンタールを使用し、容疑者たちは薬の影響下でその罪を自白したと言われています。
ただし、この結果だけではチオペンタールに自白剤としての効果がどれほどあるのか分かりません。
2013年には、テレビジャーナリストのマイケル・モーズリー氏が自らの体で実験しました。
彼は麻酔医に協力してもらい、チオペンタールを投与されても、嘘をつき続けられるか検証したのです。
1回目の投与後1分もたたないうちに彼は「シャンパンを飲んでいるかのような気分だ」と笑い出しました。
そして自身の職業について尋ねられると、「世界的に有名な心臓外科医だ」と嘘をつくことができました。
ところが2回目の大量投与後、モーズリー氏は同じ質問に対して「テレビのプロデューサーだ」と真実を答えてしまいまい、その後は眠りに落ちてしまいました。
実験後にモーズリー氏は、「質問された時、嘘をつくことさえ思いつかなかった」と説明しています。
この実験からは、チオペンタールが判断力を低下させることで自白剤としていくらか利用できる可能性が示されています。