今年、熟成50年を迎える日本酒「八継(はっけい)」から、「八継 刻50 純米」「八継 刻50 本醸造」を期間限定・数量限定でオンライン販売を6月15日まで行っている。

日本酒最盛期の時代に未来に夢を託した造り手たち

「八継」の仕込みが行われたのは、今をさかのぼること50年前の1973年。日本酒の国内出荷量が177万㎘に達し、最盛期を迎えた年だった。その翌年から、日本酒の出荷は減少傾向へと転じ、2020年にはおよそ1/4となる41万㎘まで激減した。

そんな日本酒が全盛の時代に、古酒(熟成酒)の価値を見出し、あえて日本酒を寝かせることを選択した造り手がいた。

低温管理された貯蔵庫のなかで静かに熟成は進み、定期的に味わいと状態を確かめ、時間をかけて変化を見守っていく。通常、3年以上で古酒といわれる中で、この貯蔵庫に眠る日本酒は1995年の阪神淡路大震災も乗り越え、次の代の造り手へ、また次の代へと、受け継がれていった。

50年を迎えた今しか、感じられない味わい

熟成が30年を迎える頃、その色味は琥珀色に濃く色づいた。そして、それを超えると反対に、成分の沈殿などによって液体の色はクリアに変化し、透明度を増していった。実際に「時間」を重ねてみなければ分からないこうした変化を、醸造責任者は驚きや期待とともに見守り続けてきた。

そして50年を迎えた現在、「八継」は美しく澄みわたり、味わいもこの数年のうちにさらに磨かれ、日本酒本来の味を超越した状態になっている。

貯蔵庫のなかで眠りつづける限り、熟成はさらに進むため、50年熟成の味わいは今しか感じることができない。これからも熟成を受け継いでいくために、すべてを一度に蔵出しするのではなく、期間限定・数量限定にて販売する。

長期熟成を経て生まれる「時間」という価値

「八継」が長い時のなかで静かに熟成を重ねていた頃、時代の移り変わりとともに、世の中の価値観も変化した。その中で、大量生産・大量消費ではなく、良いものをきちんと見極めて評価しようとする人が増えた。

日本酒の古酒はマイナーな存在で、ワインのヴィンテージ、ウィスキーのエイジングのような文化は根づいてこなかった。そんな中、「八継」の長期熟成は美味しさを追求するだけでなく、時間という新しい価値を日本酒にもたらす試みでもある。

これまで何人もの造り手によって受け継がれ、これからも大切な資産として、次の代へと繋いでいくべきもの。「八継」の長期熟成には、そんな稀少性と価値を理解し、きちんとその価値を届けていくという意義が込められている。

1番はじめに長期熟成に挑もうと決意した人、その味わいの変化を見守り受け継いできた人、50年熟成として企画した人、熟成酒を瓶に詰める人。そして、その瓶を手に取り、50年という時間の豊かさを味わう人。

「八継」は、さまざまな人の想いが繋がりながら、未来に向かって歩みを進めている。大切なパートナーや友人たちなど、現在という時間をともに過ごしたい人と楽しみたい日本酒だ。

八継 刻50 純米・八継 刻50 本醸造
熟成年数:50年
製造者:沢の鶴
内容量:各720ml
価格:250,000 円 (税別)

(高野晃彰)