毎年12月になると夜空に輝く「ふたご座流星群」を楽しむことができます。
こうした流星群は、彗星の尾の軌跡に地球が飛び込むことで、その塵が大気圏で燃えて生み出されます。
しかし、ふたご座流星群の母天体だと考えられているのは彗星ではなく、「小惑星ファエトン」です。
一般的に小惑星は尾を持たず、彗星は尾を持つ天体と考えられていますが、ファエトンは小惑星でありながら、彗星のような尾を持っているのです。
一体この小惑星の尾はなんなのでしょうか?
今回、アメリカのカリフォルニア工科大学(Caltech)地質惑星科学部に所属するキーチェン・チャン氏ら研究チームは、ナトリウムと塵を検出できる太陽圏観測機を使用して、小惑星ファエトンの尾が塵ではなく、ナトリウムでできていたことを明らかにしました。
研究の詳細は、2023年4月25日付の科学誌『The Planetary Science Journal』に掲載されました。
流星群の母天体にはなれない?「小惑星と彗星の違い」
私たちが楽しみにしている流星群は、彗星によってもたらされます。
彗星の軌道上には、彗星が放出した塵の粒が密集しています。

そのため彗星の軌道(塵の帯)と地球の軌道が交差する場合、地球は毎年同じ時期に塵の密集地帯に飛び込むことになります。
これが流星群のメカニズムであり、地球上の私たちからは、地球の大気と衝突する塵が高温になって光を放つ様子を観測できるわけです。
ちなみに、流星群の塵を放出する天体を「母天体」と言います。
毎年12月に観測できる「ふたご座流星群」も同様のメカニズムで光り輝いています。
そしてふたご座流星群の塵の帯を作った母天体は、「小惑星ファエトン」だと考えられています。
なぜなら、天文学者が1983年に小惑星ファエトンを発見した時、ファエトンの軌道とふたご座流星群の塵の帯が一致していたからです。
彗星ではなく小惑星が母天体となることなどあるのでしょうか?
一般的に、そのようなケースは稀です。その理由は彗星と小惑星の違いを考えると明白です。
彗星は氷、岩石、塵が混ざり合ってできており、その構成から「汚れた雪玉」と呼ばれることもあります。
そのため彗星が太陽に近づくとその熱で氷が蒸発し、一緒にガスと塵も放出されます。
このガスと塵が彗星本体を包む淡い光である「コマ」や彗星の「尾」を作り出すのです。

一方、小惑星は主に岩石と金属で構成されています。
彗星のように大量の氷が含まれておらず、蒸発することもないため、ガスと塵の放出による「コマ」や「尾」がありません。
彗星の放出によってできる塵の帯が流星群を生じさせるので、基本的に小惑星は流星群の母天体にはならないのです。

ところが、ふたご座流星群の母天体である「小惑星ファエトン」は「尾」を持っており、2009年にはNASAの太陽観測衛星「STEREO」が、太陽に最も近い点に到達したファエトンから伸びる「短い尾」を観測しました。
そのため天文学者たちは、「太陽の熱によって小惑星ファエトンの表面から塵が放出され、これが尾を形成し、流星群の母天体となっている」という仮説を組み立てました。
ところが2018年、NASAの宇宙探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」による観測で、ふたご座流星群の塵の帯を形成するのに十分な量の塵をファエトンは放出していないことが明らかになりました。
このためファエトンの尾がふたご座流星群の母天体という仮説は揺らいでしまったのです。
そこでチャン氏ら研究チームは、「ファエトンの尾は塵以外の要因で生じているのではないか」と考えました。
そして彼らは、彗星が太陽に非常に近い時にナトリウムの放出で明るく輝くことから、ファエトンの尾も同様の原理で輝いているのではないかと推測しました。