3種のヒレを使い、飛行している
トビウオはどうやって飛んでいるのでしょうか? それは、胸ビレ、腹ビレ、尾ビレを上手に使っているためになります。
トビウオは、飛ぶ前にまず水中で十分に加速します。十分なスピードが出た後は、尾ビレで水面を叩いて飛び上がります。
この行動で推進力を得た後は、胸ビレをグライダーの翼ように使って、揚力を得ます。一部のトビウオでは腹ビレは退化しているものの、腹ビレで空気の流れを変えることにより、揚力を向上させることもできます。
また、ヒレの棘の間にある膜「ヒレ膜」も頑丈な作りをしているため、飛行中の大きな空気の抵抗にも耐えられるようになっています。
見た目のイメージから「発達した胸ビレだけが役に立っている」と思われがちですが、他の部位も飛行に貢献していたのですね。
では、その飛ぶ高さ、距離、速さ、時間、道筋などはどうなっているのでしょうか?
1度の滑空で飛ぶ高さは約3m、距離は約80mほどですが、水面に近づくと再び尾ビレでジャンプすることができます。
そのため連続の合計距離では、約300mも連続して飛んだことが確認されています。いくら天敵から逃げるとは言え、そんなに長い距離を飛んでしまって、窒息死したり、体が乾燥したりしないのでしょうか?
それは、トビウオが飛ぶ速度に関係があります。速さは時速約60kmにもなると言われており、これはツバメやヒヨドリなど、一部の鳥よりも速い速度になるのです。
つまり、飛行距離と速さから計算すると、飛行時間は最大でも約50秒程度になります。「思ったより速い!」のではないでしょうか?
また、急停止、方向転換をすることも可能です。空中には鳥という天敵もいますし、窒息死するリスクもあるため、このように進化したようですね。
このトビウオのヒレは生後約2週間から大きくなるため、稚魚でも飛ぶことが可能です。
幼い頃から、トビウオは魚界の「ジャンプ名人」と言えそうですね。
航空力学の分野からも魅力的なトビウオ
体が軽いため、飛行できる

ヒレ以外にも、トビウオが飛ぶことができる理由があります。それは、「体の軽さ」「体の形」が関係しています。
まず、当然体は軽くないと飛ぶことができません。
トビウオは、そもそも消化しやすい甲殻類の大型プランクトン、カニ、多毛類の幼生などを食べます。無胃魚であり腸も直線的で短いため、すぐに消化して排泄をします。
ちなみに、身近なメダカ、サンマ、イワシなども無胃魚です。プランクトンなどの小さな生物を食べる魚に多く、決して魚界としては珍しい構造ではありません。
つまり、食べ物を体内に長時間溜め込まないようになっているため、体重を軽く保てるのです。また、「体に余計な脂肪が無いこと」も軽量に貢献しています。
お陰で、私達人間にとっては「脂っこくない美味しい食べ物」としても認識されているのは、何とも皮肉ですね。
鳥類と同じように、「骨密度が低いこと」も、軽量化に一役買っているようです。
軽量ということだけでなく、その体型にも秘密があります。
見た通り細長い円筒形をしていますが、これは空気の抵抗を減らすことに貢献しています。航空機や新幹線のようなフォルムをしていることにも、理由があったのですね。
トビウオの飛行メカニズムの、人間社会への応用

科学技術分野には、「自然界の物を模倣して、人間社会の産業に利用しよう」という「ネイチャー・テクノロジー」という分野があります。
特に、生物を模倣して産業機械を作ることを「バイオ・ミミクリ―」と言い、その学問分野を「バイオ・ミメティクス」と呼びます。
この分野で有名な例としては、古くはレオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の飛翔の様子を観察して、飛行機械を設計した話などがあります。
このバイオメミティクスが、トビウオに関しても期待されています。
既に「良く飛ぶ紙飛行機」や「浮いて走る乗り物」の研究の際には、トビウオを含む様々な生物の飛行システムが参照されているのです。
今後、航空機など何らかの乗り物に、トビウオの飛行システムが応用されるかもしれません。
もしも、水面スレスレを飛ぶ乗り物などが開発された際には、きっと我々は食用として以外にもトビウオに感謝するのかもしれませんね。
参考文献
トビウオの滑空のしくみ, 岡山県立図書館
トビウオ、銀ビレで大海原を翔ける魚, マルハニチロ
よく飛ぶ紙飛行機Ⅶ ~飛ぶ力と尾翼の形~, 静岡大学教育学部附属浜松中学校1年
よく飛ぶ紙飛行機Ⅸ ~滑空生物の翼と飛ぶ力~,静岡大学教育学部附属浜松中学校3年(PDF)
『ネイチャーテクノロジー』―自然に学んだモノづくり「ロボット技術」―, 鈴木由郎(PDF)
How Do Flying Fish Manage To Fly?, Ruqqaiya Khan
元論文
How and why do flying fish fly?, John Davenport
トビウオの滑空における地面効果の影響に関する研究(流体工学,流体機械), 染矢 聡