ちなみに、オルバン首相は2月18日、ロシア軍のウクライナ侵攻1年目を控え、ブタペストで「国家の現状について」の演説を行い、ロシアのウクライナ侵攻については、「主権国家への軍事侵攻は絶対に容認できないが、ウクライナの国益をハンガリーの国益より重視する政策は道徳的にも間違っている」と強調し、「2022年の大きな成果は、わが国が可能な限り、ウクライナ戦争の影響に飲み込まれないようにしたことだ」と言い切る。ある意味でハンガリー・ファーストだ。欧州メディアでは“オルバン主義”と呼ばれる政治だ。

EUの欧州員会は昨年7月15日、オルバン首相が率いるハンガリー政府に対し、「民主主義と法の遵守」、「メディアの自由」などを要求し、その是正を求めてきたが、その中には、ハンガリーが小児性愛者対策を目的とし、教材や宣伝で同性愛や性転換の描写や助長を禁じる新法「反小児性愛法」を施行した問題も含まれ、EUからは「反LGBT法」として批判されてきた。それに対し、オルバン首相は「結婚は男性と女性の異性婚しかない」と主張し、同性婚をはっきりと拒否している。

参考までに、バチカンは同性愛問題では「同性愛者への差別は是正すべきだが、同性婚は認めない」というスタンスを取っている。また、中絶問題でも女性の権利を認める一方、生命の尊重という観点で中絶を認めない。同性愛問題、中絶問題ではハンガリーは欧州でバチカンのカテキズムに最も忠実な国といえる。

フランシスコ教皇はハンガリーに対して民主主義の欠如や移民への排他主義を間接的に非難する一方、カトリック教国ハンガリーを「自由の価値を知る国」という表現で期待を吐露するなど、ハンガリー批判一辺倒の他の欧州諸国の姿勢とは距離を置いている。フランシスコ教皇のハンガリーへのスタンスは典型的なアンビヴァレンツ(独語Ambivalenz)だ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。