もし破れた革のジャケットが勝手に修復するとしたらどうでしょう?
そんな夢のような技術が今まさに実現しようとしています。
英ニューカッスル大学 (Newcastle University)、ノーザンブリア大学(Northumbria University)はこのほど、菌糸から作ったレザー(革)に自己修復機能を持たせることに成功したと発表しました。
この菌糸レザーを用いれば、破れ目が知らぬ間に塞がるようなジャケットが作れるかもしれません。
研究の詳細は、2023年4月11日付で科学雑誌『Advanced Functional Materials』に掲載されています。
ファッション界は「菌糸レザー」の時代に突入している
実は菌類を素材とした革製品の製造は、今回新たに始まったことではありません。
米サンフランシスコにあるバイオテクノロジー企業・Mycoworks社は、キノコを素材とした「マッシュルームレザー」の実用性をすでに証明しています。
同社が用いるのは、菌糸体からレザーを作る特許技術「ファイン・マイセリウム(Fine Mycelium)」です。
菌糸とは菌類の体を構成する糸状のもので、これがより集まることで菌糸体(mycelium)を作ります。
これまでの研究で、菌糸体を化学物質で処理すると牛革に似た素材が得られることが分かっていました。
ファイン・マイセリウムでは、この菌糸レザーを薄くしたり厚くしたり、他の素材を混ぜ込んで耐久性を高めたり、手触りを牛革や羊革により近づけることができます。



菌糸レザーを産業に導入できれば、皮革を得るための動物の屠殺(とさつ)を大幅に減らせますし、また菌類は生分解性のバイオ素材であるため、環境にもやさしいと考えられています。
現に、世界に冠たるフランスの高級品メーカー・エルメス(HERMÈS)は、Mycoworks社を資金面で支援しており、2021年にはファイン・マイセリウムで作られた独自の菌糸レザーを用いたバッグ「ヴィクトリア」を発表しています。


このように菌糸レザーがファッション界で大きな注目を集め始めていますが、研究チームはここに菌類の力を活かした新たな機能を与えられるのではないかと考えました。
それが「自己修復」の能力です。