政治の分極化が極まった現代米国において、有権者の投票行動を決定するのは、特定候補者に対する愛着心よりも、競合政党への敵対心である。この現象は「否定的党派性」とも言われるが、共和党はリベラル派に対する反発、民主党支持者の場合はトランプが当選する恐れから、支持政党の候補者に投票せざるを得ない状況に追い込まれている。そのため、トランプとバイデンは候補者にさえなれば、いくら予備選の段階でいざこざがあっても本選では党内反対派からの支持を獲得することがほぼ確実である。

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バイデンは自分がトランプ打倒請負人であるという自負があり、それゆえ再選を決意したのであろう。出馬表明の動画で、トランプ支持者の言い換えであるMAGA共和党員から民主主義を守ることを強調していた。バイデンは2020年と同様に自身が「トランプではない」ことを最大のアピールポイントとして選挙戦を戦うつもりである。だが、バイデンにとってその戦法で戦うだけでは不十分である。実際のところ、その戦い方で2020年の大統領選では危うくトランプに負ける可能性もあった。
2020年大統領選は総得票でみれば、バイデンがトランプを約700万票上回っていたものの、勝敗を決した接戦州の合計票数では両者は4万票程しか変わらなかった。4万というのは全体の約1億5000万票の中で見れば誤差の範囲である。もしも、トランプが自身に不利になるという固定観念を捨てて支持者への郵政投票を推奨していれば、その票差を簡単に覆せたと思えなくもない。
そして、「否定的党派性」とは別に現代米国政治を定義づける新たな現象の出現で、2024年大統領選が接戦という意味で、2020年の繰り返しとなる可能性も出てきている。20世紀中の大統領選であれば、共和党や民主党のいずれかの候補が雪崩を打って大勝する選挙はそこまで珍しくなかった。例えば、20世紀中に行われた25回の大統領選うち12回の選挙で一人の候補者が8割以上の選挙人を獲得している。総得票数で見ても、1964年にはジョンソンが、1972年にはニクソンが対抗馬を20ポイント以上引き離して勝利した。
しかし、21世紀に入ってから、民主党と共和党は大統領選において「拮抗」している。2020年のみならず、2016年は実質8万票の差でトランプが辛勝し、2000年に至っては537票の僅差でブッシュが勝った。ここまで大統領選が競る要因の一つは、共和党と民主党の支持率が「拮抗」しているからだ。全米国勢選挙調査によれば、2020年の共和党と民主党の支持率の割合は、この40年間で最小の4%差まで縮まっている。
もう一つの要因は、「石灰化」という現象だ。米国政治学者の調査によると、直近の大統領選における各有権者の投票行動にあまり変化が見られず、その投票先が「石灰化」し始めていることが分かった。つまり、民主党と共和党の違いがあまりにも極端になり、互いの政党に対する憎悪が強まることで、有権者が支持政党を選挙ごとに変更する機会が少なくなってきているのだ。それゆえ、2016年に共和党又は民主党に投票した人は、2020年だけではなく、2024年も同党に投票するサイクルが出来上がっている。
トランプ再選は夢物語に非ず2024年に投票する米国有権者が過去二回の大統領選の時のような投票行動を継続させた場合、今後の経済状況、更なる激化が予測されるウクライナ情勢次第で、トランプ再選が可能になるだけの若干の票の揺れ動きが起こる可能性も否定できない。
しかし、繰り返しにはなるが、トランプの最大の敵はトランプ自身だ。渡瀬裕也氏が指摘しているように、2020年大統領選の結果を否定するトランプの持論が無党派層や穏健的な共和党員を遠ざけている。そして、このあまりにも不人気なスタンスに変更を加えない限り、大統領選の結果を決定づける接戦州で勝利することはできない。
それを理解してか、トランプは人口妊娠中絶や社会保障の問題では、従来の共和党候補者よりも左派的なスタンスを取っており、穏健派獲得に向けて戦略的な選挙活動を行っている。だが、トランプに自制心が欠如していることは、これまでの言動から自明である。よって、2020年大統領選が不正であったという陰謀論をどれだけ隠せるかが、トランプ再選を左右する試金石となるはずだ。