加えて水素においてはグリーン水素、ブルー水素といったカテゴリー分けではなく、炭素集約度に基づく取引可能性や国際標準・認証の必要性が指摘され、日本が強みを有する環境性能の優れた製品、技術による「削減貢献量」の重要性、エネルギー転換期のトランジション・ファイナンスの重要性が指摘されたことも特筆したい。
再エネについてはG7全体で洋上風力150GW、太陽光1TWという数値目標が盛り込まれたが、クリーンエネルギーのサプライチェーンにおける人権、労働基準遵守の確保、(特定国・地域への)過度の依存の問題点、再エネやEVに不可欠な重要鉱物の脆弱なサプライチェーン、独占、サプライヤーの多様性欠如による経済上、安全保障上のリスクについても指摘された。
「安い再エネ」はウイグルの強制労働を使い、生産工程で石炭火力を使う中国製パネルに支えられるとことがあったが、上記の課題に取り組めば再エネのコストアップ要因になる。再エネ拡大を図るうえで大きな課題となろう。
温暖化目標の面では昨年のエルマウサミット以上に非現実的な数字が並ぶことになった。「2025年全球ピークアウト」や新興国を念頭に「1.5℃目標と整合性を保つべく、2030年目標を見直し、2050年カーボンニュートラルをコミットすることを求める」等が盛り込まれたが、中国が2030年ピークアウト、インドが2030年以降も排出増を見込んでいる中で、インド主催のG20にこうした文言が盛り込まれる可能性は皆無だ。
温暖化防止に対する先進国の優先順位が新興国、途上国でシェアされていないことは明らかであり、しかも先進国は彼らの行動変容を促す有効なレバレッジを有していない。新聞報道では「2035年60%減という数値目標を書き込んだ」とあるが、原文を読むとそうした数字を含むIPCC報告書の指摘の緊急性をハイライトするというものであり、G7の2035年目標をプレジャッジするものではない。
朝日、毎日、東京新聞にはエネルギー温暖化問題でまともな記事などはなから期待していないが、最近の日経新聞の報道はいただけない。
今回、日経新聞は数値目標に関する議論を特筆大書し、「EVの導入目標や石炭火力の廃止時期など日本は共同声明の随所で数値目標の設定を拒み続けた。議長国ながら米欧が求める意欲的な脱炭素目標に抵抗する場面も目立った」と批判しているが、筆者はエネルギーの現実を踏まえた合理的な着地点を見出したこと、無意味な数値目標を盛り込まなかったことを評価したい。
環境原理主義者は空虚な数値目標に拘泥するが、これは京都議定書時代のマインドセットと全く変わらない。気候変動エディターなるものが登場して以来、最近の日経新聞にはそうした愚かな思い込みに基づく記事が多いのは困ったものである。